一昨年、作者の内田康夫さんが他界されたが、本棚からこの本がたまたま出てきたので再読してみた。読んだのはかなり昔になるので、内容はすっかり記憶から消去されており、新たな気持ちで読むことができたといってよい。ちょうどテレビで冤罪事件の特集をやっていたが、この作品の核となっているのは35年前の冤罪事件。この作品も浅見光彦シリーズの一つだ。ヒロインはピアニストの三郷夕鶴。
夕鶴は、鼻の脇に大きなホクロのある男から、父の伴太郎に紙片を渡してくれと言われる。その紙片には「はないちもんめ」と書かれていた。これが一連の事件の幕開けになる。
まず夕鶴の親友の甲戸(かぶと)麻矢の父親の天堂が殺される。更には夕鶴に紙片を渡した男、夕鶴の叔母の梅子も。そこには35年前の因縁があった。
紹介されるのは「はないちもんめ」という童歌。この歌や遊びは日本中にあるので、語源に関しては、いろいろな説があるが、ここでは「はな」=紅花説をとっている。紅花と言えば、山形県。これはかって、山形県で、紅花にちなんで「紅藍の君」と呼ばれた女性に関する哀しい事件だ。なお、「紅藍の君」という女性は出てくるが、別に被害者にはなっていない。というよりあまり作品中で存在感を発揮していない。
三郷家は、今は東京に住んでいるものの、祖父の代までは山形に住んでいた。35年前に使用人の黒崎賀久男が殺人事件の冤罪を着せられ、無期懲役となって服役していたのである。この黒崎が出所したという。彼が冤罪を着せられたのは、供太郎や天堂などの偽証による。果たして事件は、冤罪を着せられた黒崎の復讐なのか。
内田さんの作品は、関係者を実名で登場させることが多いがなぜかこの作品では仮名となっている。まず、三郷家は昔紅花で財を成したというが、調べてみると堀米家というのがあったので、ここをモデルにしたと思われる。また、この作品には、河北町の紅花記念館というものが出てくるが、このモデルは、明らかに河北町の紅花資料館だろう。
驚くような、どんでん返しもあり、楽しんで読むことが出来たが、ひとつ疑問がある。光彦の友人だという霜原宏志だ。夕鶴と姉の透子のテニスのコーチだったという設定で、光彦と夕鶴の出会いも彼によるところが大きいが、いったい光彦とどういう関係なのか。内田さんはプロットを書かないことで有名だが、話の進み方次第では彼が犯人にされていたのかな?
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※初出は、「風竜胆の書評」です。