銭形平次と言えば、その卓越した推理力で難事件をバッサバッサと解決していく名探偵というイメージがあるのだが、どうも碁だけは、下手の横好きのようで、子分の八五郎にも負けるくらいなのである。八五郎に碁の才能があるかどうかはよく分からないが、
「・・・手前などは、だらしのあるのは碁だけだらう」
と、一応平次に言わせている。
ある日この二人は碁で、もし平次が負けたら1日親分子分を交代するという賭けをした。そんな平次のところに客が来た。十八九の武家風の娘で8000石の大身の旗本、大場石見の用人相澤半之丞の娘だという。
大場家には、家宝ともいえる東照宮からの御墨附があった。しかし房州にある領地で苛斂誅求の訴えがあったため、一旦若年寄預かりとなり長期間留め置かれたが、この度返却されることになった。それを受取りに行ったのが、相澤半之丞という訳である。タイトルに「名馬」とあるが、この時に乗ったのが、大の馬好きである主人・大場石見が貸してくれた東雲という名馬である。ところが、相澤半之丞は生まれつきの馬嫌い。見事に落馬したうえ、大事な御墨附の入った文箱もいつの間にかすり替わっていた。このままでは大場家は改易になる。実は大場石見は、本来の大場家当主ではなく、本来の当主の後見人だったはずが、家督を譲らなかった。そして悪政で領民から恨みを買っていた。
平次はこの事件を見事に解決して、大場家の家督を本来の当主に戻し、石見を失脚させる。平次の魅力は、今の刑事ドラマのように何が何でも犯人をつかまえるようなものではなく、その背景まで考慮して、落ち着くところに落ち着かせるというところだろう。もちろんこの話でも平次は銭を投げない。それにしても八五郎と1日親分・子分を交代したはずが、とてもそうとは思えないところがなんとも面白い。
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