あの毛玉たちが、7年半の時を越えて帰って来た。1200年の歴史を誇る平安の都を舞台に、狸、天狗、人間が入り乱れて繰り広げる阿呆囃子。森見登美彦による
「有頂天家族」(幻冬舎)の第2部、
「二代目の帰朝」だ。
主人公は、矢三郎という、狸界の名門である下鴨家の三男坊。父親総一郎は、京都の狸を束ねる偽右衛門という地位にあったが、体に流れる「阿呆の血」が災いして、人間たちに狸鍋にされてしまった。矢三郎は、他の兄弟たちの誰よりも、その「阿呆の血」を受け継いでいるようだ。総一郎を狸鍋にしたのが、メンバーのそれぞれが七福神の名前を名乗っている、「金曜倶楽部」という謎の集団。仕向けたのが、下鴨家の宿敵である夷川家の当主で、矢三郎にとっては実の叔父である夷川早雲だ。
今回の物語は、「赤玉先生」こと如意ケ嶽薬師坊の息子が、英国から帰ってきたことから幕を開ける。この赤玉先生は、かって力のある大天狗だったが、その力も無くしてしまい、すっかり落ちぶれている。今では、かって自分の生徒だった矢三郎の世話を受けながら暮らしているのだが、困ったことに、プライドが高くて扱いにくいうえに、弟子の弁天という美女の色香に迷いまくっているのだ。弁天は、元々は人間だったのだが、赤玉先生に浚われて天狗になってしまった。その性格は傍若無人。天狗としての力も相当なものだ。その名前からも察しがつくように、彼女は、金曜倶楽部のメンバーでもあり、総一郎を狸鍋にして食った者たちの一人でもある。しかし、「阿呆の血」のなせる業か、矢三郎はこの弁天に恋をしているようだ。
この第2巻のテーマを一言で表せば、「愛と戦い」ということだろうか。まず「愛」に関して一番大きな出来事は、下鴨家長男の矢一郎と南禅寺家の娘玉瀾が結婚したことだろう。それだけではない。矢三郎と夷川家の娘海星との婚約も復活する。二人の婚約は、叔父であり、宿敵夷川家の当主である早雲が、一方的に取り消したものだった。なぜか自分の前に姿を見せず、おまけに口がとっても悪い海星との婚約復活に、矢三郎は、あまり乗り気ではなかったのだが、彼女が自分に姿を見せたとき、その可愛らしさにすっかり考えが変わったようだ。さすがに、阿呆の血筋である。そして、旅に出ていた二男の矢二郎にも、四国の金長狸の娘・星瀾という気になる相手が。
次に「戦い」だが、こちらもなかなか壮大だ。まず、下鴨一族と夷川一族の宿命の対決。今回下鴨一族は、大ピンチになるが、その裏には、夷川早雲の恐るべき陰謀があった。次に、金曜倶楽部対木曜倶楽部。木曜倶楽部というのは、元金曜倶楽部のメンバーで、本当の狸愛に目覚めた淀川教授が金曜倶楽部に対抗するためにつくったものだが、なにしろメンバーは彼と矢三郎のみ。こちらの戦いは、殆どワンサイドゲームである。そして、二代目対弁天の天狗同士の戦い。この巻で描かれている2回の戦いは、いずれも二代目が制したのだが、彼が弁天を嫌っている訳が、なんだかとてもなさけない。しかし、愛と憎しみは裏返し。これは、もしかしたらもしかするかもという予感が。
古都京都を舞台に繰り広げられる馬鹿騒ぎはなんとも面白い。しかし、笑いの中にも独特のペーソスが感じられ、なんともユニークな作品に仕上がっている。おまけに、単なる困ったちゃんキャラだと思っていた天狗の赤玉先生も、最後は、なかなかいい味を出していた。
特筆すべきは、最後のページに、第三部の予告が掲載されていることだ。いったいどのような展開になっていくのか楽しみではあるが、第1部が出てから第2部が出るまでの年月を考えると、いったいいつまで待てばいいんだろうか。なにしろPRの言葉が「天地鳴動 執筆未定」だそうだから、たぶん忘れたころになるんだろうなあ。ますますヒートアップする森見ワールド、早く次にお目にかかりたいものだ。
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