文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:手にした人だけが次の時代に行ける黄金のボタン

2015-04-02 15:54:21 | 書評:ビジネス
手にした人だけが次の時代に行ける黄金のボタン (ALL WIN出版)
クリエーター情報なし
ALL WIN出版


 格闘家あがりだという著者が、自らのビジネス成功体験を綴った、「手にした人だけが次の時代に行ける黄金のボタン」(小楠健志:ジコサポ出版)。著者は現在「ジコサポ保険整骨院」を経営するとともに、「NPO法人ジコサポ日本」の理事長を務めているという。

 著者のビジネスの出だしは、格闘技を指導していたジムの1室に開業した「整骨院」だったが、いっしょに整骨院をやってみたいという人が現れたため、2号店をオープンした。ところが、立地が、田んぼのど真ん中というようなところ。6年間その場所でやってきて、「通りがかり」で来店した人は、0人だったという。開業2年目に、経営を任せていた人が独立することになり、自分が経営しようと通帳の残高を確認したところ、利益は2年かけて、わずか数十万円。これはいかんと、経営を立て直すため、ビジネス書を読んだり、治療技術を高めたり。ここから著者の経営者としての奮闘が始まる。

 しかし、色々やってみてもなかなか経営状況は改善せず、なんとか集客しようと、「マーケティング」に全力を注いだ。無料治療体験会を開催したり、ホームページを強化したり、ブログやツイッターを始めたり、野立て看板を出したり。でも、どんなに努力しても、患者はレントゲンのある病院の方を信頼してしまう。

 ちょっと注意が必要なのだが、ここで著者が言っている「マーケティング」とは、限りなく「プロモーション」に近いものだ。本来のマーケティングとは、日本マーケティング協会の定義によれば、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。」とかなり幅広いものである。そして、この「顧客」をどう定義するかによって、行うことも変わってくる。

 著者が可能性を見出したのは、交通事故の自賠責保険を使う治療だ。それまでは、患者に自賠責の知識がないため、必要な治療を途中で打ち切ってしまうこともあったという。交通事故による患者が必要としているのは、治療技術だけではなかったのだ。著者は、行政書士とタッグを組んで、治療だけでなく、賠償についても相談に乗れるような仕組みをつくる。それが、現在の「NPO法人ジコサポ日本」の活動に繋がっていく。

 ここで著者の言う「黄金のボタン」の正体が明らかになる。それは「公共性」ということだ。自分と直接の顧客だけでなく、関係する人すべてにとってメリットのある仕組みを考えることなのである。

 著者の歩みを俯瞰してみると、事業のドメインをどう定義するかといったことや、企業理念をしっかり持つということの重要さが分かるだろう。著者は、当初、事業のドメインを「怪我をした人の治療」というところに設定していた。これを「交通事故のすべての関係者を良くすること」というところに定義しなおしたことにより、事業の発展につながったのではないだろうか。そして、その定義は、確固とした企業理念にもつながるのだ。たどった道筋は逆だったかもしれないが、結果として著者の行ったことは、極めて理にかなっているといえる。経営戦略の一つのケーススタディとして読めば、なかなか参考になるだろう。


☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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