雨、25度、98%
香港のセントラル、二階建てトラムが走る道から2本ほど山よりの道沿いに、古くからの飲茶を食べさせる店があります。陸羽茶室、 茶経を書いた中国の陸羽の名前をとったお店です。80年近く続くお店だと聞いています。店の作りもさることながら、出される点心もオーソドックスな物が多いお店です。通りがかりにちょっとと思っても、予約で一杯です。格式があるというより、古くからの店構えにも、出す一皿にしても誇りを持った店といつも思います。
早朝から10時30分、11時近くまでは、飲茶のトレイを年配のおばさんたちが押して来るスタイルの飲茶です。中身がなにか解らなくても、小振りな蒸篭の蓋を取って見せてくれます。トレイの前には、料理の名前が下がっています。この名札、私たち日本人が読んですぐに解るものです。材料の列記とでもいった方がいいでしょうか。翡翠のように青い、なんて装飾語が付いていません。
香港の朝の飲茶は、こうした点心と熱いポットに入ったお茶を前に、ゆっくりと新聞を読みながら時間を過ごします。陸羽茶室では常連の席があり、どんなに人が並ぼうとその席は確保されています。
さあ、11時が過ぎると、トレイを持ったおばさんたちは姿を消して、各テーブルには、その1週間のメニューが書かれた紙の束が鉛筆と一緒に、ポイッと投げられて行きます。それが、星期美點です。 この紙の上には、何月何日から何日までと記されています。星期、1週間のことです。美點、おいしい点心。つまり、星期美點は、1週間のおいしい点心のことです。一皿、ひと蒸籠がいくらと書かれるようになったのはここ数年のこと。
こちらは、20年以上前の星期美點です。値段も、注文の個数を書く括弧もありません。このメニューも、早朝のトレイの名札と同じで、材料が書かれています。定番のメニュウ、塩味の点心、麺やご飯もの、甘い点心とそれぞれ区切られて書かれています。
香港にやって来た当初から変わらぬもののひとつが、この星期美點です。大きな飲茶屋さんでもトレイを廃止して注文スタイルに変わったところもあります。同じ注文スタイルでも、陸羽茶室は一貫してこの星期美點スタイルです。
我が家から歩いても15分ほどの陸羽茶室ですが、そんなに頻繁に訪れるわけではありません。大事なお客様をお連れする時だけです。そんなわけで、流石の私も大事なお客様を前にして、点心の写真を撮ることは出来ません。でも、この星期美點、必ず一枚ちょうだいして来てとってあります。お客様たちにも、記念にお持ち帰りください、とお勧めします。旅の思い出にと思うのですが、本当に大事に思っているのは私だけかもしれません。この25年以上で少し溜まりました。
少し暗めの店内、夏になれば天井の大きなファンが舞います。昔はテーブルの足元には痰壷が置かれていました。流石に10年前のサーズ以来、姿を消してしまいました。
11時前はおばさんたち、11時を過ぎるとおじさんたちが忙しく立ち働いています。ピーク時には、あのうるさい広東語が部屋中を満たします。こちらだって、負けずに声が大きくなります。フュージョンされた飲茶ではありません。ゆっくりと周りの人たちを見ながら、同じペースで飲茶するには、本当にいい空間です。
電話での英語の予約は、かなり難しいと思います。平日の11時前ならば、飛び込んでも座れる確率が高いようです。香港の古き良き時代の名残をとどめた飲茶屋です。