アザミ
曇、23度、90%
昨年のことです、香港に戻る為に福岡の国際空港に向かっていました。空港敷地の柵際にたくさんのアザミが咲いているのを見つけました。紫の花といえば鉄線などよりも真っ先に思いつくのがアザミです。濃い緑のとげのある葉っぱの中に紫の花をつけます。
先日、花市でバイモユリを求めましたが、もう少し別の花もと思い花市を一巡しました。そこで見つけたのがアザミです。たった一束だけ。アザミを香港の花市で見たのは今度で2度目です。お店の人にどこから来た花か尋ねますがご存知ありません。出身地不詳のアザミです。
香港に来た当初は、経済が上向きの頃、まだ中国返還前の香港です。繁華街には洋食器を扱う店が沢山ありました。イギリスの窯元もドイツもイタリアも、北欧の食器だってあの当時の方が沢山ありました。イギリスの食器の店の片隅に、アザミとクローバーの模様のティーカップがそれぞれ1客ありました。古色蒼然としたその絵付けが気に入って、幾度となく手にとりました。お店のイギリス人のおばさんにクローバーとアザミの絵の由来を尋ねたところ、いとも簡単に返って来た答えは、クローバーはアイルランドの国花、アザミはスコットランドの国花だということです。それを知ったとき、イギリス連邦という言葉が頭をよぎりました。イギリスではないイギリスです。そしてここ香港も、イギリスでないイギリスでした。
アザミを漢字で書くと、薊です。私はこのお名前を持つ方を存じ上げています。お年は私よりひと回り以上も上の方で、香港には既に50数年お住まいです。50数年前、横浜からこの香港に嫁いでみえました。家柄のある大家族、しきたり通りに男の子を授かるまで出産を重ねたと聞きます。沢山のお子さんに今では沢山のお孫さんまでおいでです。きっとたくさんのご苦労があったに違いありません。それなのに薊さん、ちっともそんな風には見えません。お会いするときはどんな場であろうと、ヒールの靴を履いていらっしゃいます。ヒールの線と背中が一直線。きちんとセットされた髪にその時その時に合った服装です。きっとお家の中では日本語を使われることがないでしょうのに、話される日本語も書かれる日本語もきれいな日本語です。そのうえ、こんな年下の私までが気安く薊さんと御呼びするのを許してくださいます。お許しがあればお写真を載せたいほどです。素敵な方と簡単な一言では言い表わせないほどの方です。つまり、私の憧れの人です。
トゲトゲのある葉っぱ、 その中にしっかりとした紫の花をつけるアザミ。これからもアザミの花を見ると、薊さんを思い背筋を伸ばし、遠くスコットランドの野辺に咲き乱れるアザミに思いを馳せることでしょう。