曇、23度、86%
5月を目前になんとも爽やかな日が2日ほど続いた香港です。例年この時期になると、花市のどこの店にも顔見せする花があります。そんなに大事に扱われてはいません。花屋の正面の角にはこの花のバケツがそれとなく置かれています。その花はボタンとクチナシです。香港の花市ほとんどの花が、輸入されてきます。オランダ、アフリカ、日本、台湾、中国の昆明。ところがこの季節のボタンとクチナシ、正真正銘な香港育ちの花たちです。もちろんサーチャージなんてかかりませんから、お値段も普通の花の半分以下、なんとも嬉しい話です。
ボタンはもっと濃い色のものもありますが、この薄ピンクのボタンは、 うっすらといい香りがします。このうっすらと香ることを「清香」と広東語では表します。お茶の香りにも使われる形容詞です。ボタンに香りがあることは、香港に来るまでは知りませんでした。まんまるな球状のつぼみが開き始めると、ゆるりゆるりと匂いはじめます。風にも乗らないほどの微かな匂いですので、鼻を寄せてやります。香りがあると知ってからは、この薄ピンクのボタンしか買わなくなってしまいました。
「白蝉」と広東語では書く、クチナシ。 おそらくこのつぼみの形が、羽を閉じている時の蝉に似ているので付けられた名前ではないでしょうか。町中にはクチナシの木など見られませんが、きっと田舎に行くと薮の入り口などに自然に植わっているものと思われます。このクチナシの花束は、長さもまちまち、園芸などに携わっていない人が縛ったような乱雑さです。
クチナシの花など、日本にいるときは買ったことなどありませんでした。はじめて買い求めた時、花は開かずにつぼみのまま茶色になって枯れてしまいました。次の年、花屋のおばさんに尋ねると、生ける前に花をバケツの水につけなさいと教えてくれました。要するにひっくり返して花だけを水につけるわけです。こうすると、間違いなく花開きます。アジサイによく霧を噴くように言われているのと同じ事のようです。雨の多い季節の花たちは、花も水を必要としているのかもしれません。
湿度が低いこの2日、窓を開け放っています。風に吹かれて、クチナシの匂いが部屋を流れて行きます。
クチナシを「白蝉」、ボタンの香りを「清香」、広東語のこうした言葉遣いに中国語の言葉の奥深さ、美しさを感じるのもこの季節です。