大雨、19度、99%、雷注意報
パンを買いました。ほとんど家で消費するパンは自分で焼きます。この消費、当然、モモさんを含む主人と私、そして、毎日我が家にやって来る鳥たちを指します。
野生の鳥たちに出窓の外でパン屑を与え始めてもう7、8年でしょうか。きれいな声で鳴くコウラン、シロガシラ、ちいさな鳥たちがやって来ます。きっかけは何だったのか、きっと焼きそこないのパンが出来たからだったかな?もう忘れています。鳥たちは、とても規則正しい生活です。朝、私が植物に水遣りをするため窓を開けると、それを合図に窓辺に集まります。ストロベリーポットの上にザル豆腐のかごをのせ、その中にパンを小さくしてやると、代わり交代にやって来てはついばんで行きます。そうそう、今日は鳥の話ではありません。「生命麺包』の話です。
「生命麺包」というパンを買ったのです。鳥たちの為にパンを買いました。この所、私が焼くパンは日本から友人がわざわざ送ってくれた貴重な日本の小麦で作った強力粉を使っています。鳥たちには申し訳ないのですが、流石の私もこのパンは、鳥たちに分けてやれません。この時期、鳥たちは巣作りを始めます。それなのに、香港は異常な天候で実を付けたブラックベリーもほとんど地面に落ちてしまっています。雨が降っても、強風でもやって来る鳥たちのご飯を減らすことは出来ません。そこで、久々にパンを買って来ました。
麺飽、ミンパオと読んでパンのことです。「生命麺包」つまり命の糧のパン。薄いろう引きの紙の包装紙、中には薄切りの食パンが20枚ほど入っています。普通の香港のスーパーのパンの棚、下のあたりに必ず見られる包みです。お値段にして$10、120円ぐらいです。
30年近く前香港にやって来て、初めてスーパーで買ったパンがこの「生命麺包」でした。まだ、家財道具が日本から着く前です。何にもないガラんとしたアパートに春休みの息子と二人きり、広東語も全く出来ません。市場に行っても、物見遊山。結局、スーパーであまり手を加えなくて食べられるものを、片っ端から買って食べてみました。今のようにフランスのなんとかカイザーのパンなんてありません。山崎パン、パナッシュ、糧友パン、サンジェルマン、ドンクなど日本のメーカーのパンは、当時は高級なパンでした。値段だけではありません。あの頃の香港の地元の食パンは、どれもこれも中折れ、つまりちゃんと立った食パンでなく、真ん中が折れていました。この、香港一大手のガーデンベイカリーの「生命麺飽」だって例外ではありませんでした。
ろう引きの薄い包装紙は、中折れのおかげで、いつもしわが寄っています。いつごろだったでしょうか、この香港一大手のガーデンベイカリーに日本のパン作りの人がアドバイザーとして入られました。以来、食パンが立つようになりました。もちろん、今ではどんな町中のパン屋さんの食パンだって、きちんと角があり立っています。ちいさなパン屋さんも、ここ数年は日本の強力粉を使っています。フランスのなんとかカイザーばかりか、おいしいパンが食べられる香港です。
この紺と白のチェックの包み紙、包装全てが30年近くもひとつも変わっていません。このパンのシリーズは4つあります。カルシュウムを強化したパンだとか、それぞれ、オレンジ、グリーン、ブルーのチェックの包みです。その3つは、今ではロウ引きの紙ではなく、ビニールに変わりました。香港ガーデンベイカリーのパンの中で、包みが変わらない唯一のパンが「生命麺包」です。
お味は、甘めのぱさっとした小型食パン。軽い軽い食パンです。
久々に手にとった「生命麺飽』、命の糧のパンが意味するように、きっとガーデンベイカリーの基本のパンなのだと思います。変わらない包装に、いつまでも、安く、命の糧をと考えるガーデンベイカリーの気持ちが伝わってくるようです。
今日も、雨、雷の中を鳥たちはやって来ます。小さくちぎってやるとき、きっと私も幾つかを口に放り込むことでしょう。