雨、21度、96%
香港のローカルのお菓子、エッグタルト、タルト地にカスタードを入れて焼いたものです。マカオのエッグタルトはポルトガルのそれに倣って焼き目がついていますが、香港のものはきれいな黄色です。小さのこんなお菓子でも、どこのエッグタルトが美味しいと皆さんあの店この店の名前を挙げます。その中の一軒が泰昌餅家。セントラルに古くからあるパン屋です。そんな風にいうとなんだかおしゃれなパン屋のように聞こえますが、間口一間の縦長い小さなパン屋で、奥でパンを焼くおじさんたちは夏場は上半身裸でした。セントラルの市場のすぐ近く、バス停の前にあるこの店はパンのほかにエッグタルトを店の一番前に出していました。この店が有名になったのは、まだ中国返還前のことです。当時の最後のイギリス総督、クリストファー パッテン氏が、ふらりとこの店によってエッグタルトを店の前でガブリと食べたと報道が流れた後からです。パッテン氏らしいこの行動、お店のおじさんと握手するパッテン氏の写真も新聞に載りました。以来、エッグタルトの前に行列ができるようになりました。
その後、とにかくセントラルの家賃は上がる一方です。何年前だか覚えていませんが、この泰昌餅家の前を通ると、家賃値上げのため店を閉める旨の貼り紙が出ていました。ところが、それを聞きつけたイギリス本国に既に帰っているパッテン氏、この店の救援の為に市民や至る所に募金を頼んだそうです。めでたしめでたし、この泰昌餅家は、元の店から200mほど先に新しく店をオープンしました。 こちらが、新しい店です。間口は元の店の4倍になってしゃれた作りになりました。こんな話、実はセントラル界隈にはまだあります。おいしい屋台のワンタンメン屋が市民の応援で店を構えたりとか。ところがこの、泰昌餅家はこれだけでは終わりませんでした。このほんの数年の間に、なんと香港中あちこちに支店を出したのです。あら、ここにも、あら、あそこにもといった具合です。
そんな新しくできた店のひとつで、主人がオフィスのみんなの為におやつを買ったのは2日前。人数分のチキンパイを買って戻ったのだそうです。チキンパイ、これはイギリスの影響を受けた、やはり香港のローカルのスナックです。小食と書いてスナック、小腹が空いた時にちょっと食べるものです。ところが退社時にまだ5つも残っていたので、我が家に来る鳥にあげてくれと持ち帰ってきました。えっ、鳥に?いえ、私が食べます。というわけで、昨日の私のおやつはチキンパイでした。
チキンパイなんていったって、チキンはかけら、ミックスベジタブルとお肉のかけらを香港人大好きなチキンパウダーで味付けしたものが中に入っています。だれが食べても、まるで中華の味です。しかも、外のパイ地は練りパイでマーガリンかショートニングが使われています。昔のチキンパイはブタの脂、ラードで作られていましたから、それはそれは美味しかったものです。もちろん健康に良くないと今ではラードは使われません。このパイ地、中がチキンなのに少し甘いところまでなんとも中華的です。ご覧のように生地が厚いので、私もおやつに2つで充分でした。
なんだか泰昌餅家のことに詳しいので、私がここのエッグタルトのファンと思われるかもしれません。泰昌餅家は我が家から歩いて10分。市場に買い物の行き来に、観光客の人にエッグタルトの?と聞かれます。あそこ、と指差す私ですが、私が美味しいと思っているエッグタルトのお店は別のところです。
エッグタルトをお土産にとお考えの方は、是非タッパウェアをご持参ください。なにぶんにも壊れ易いものですから。