雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

五月ばかりなどに

2014-07-16 11:00:09 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百六段  五月ばかりなどに

五月ばかりなどに、山里に歩く、いとをかし。
草葉も水も、いと青く見えわたりたるに、上はつれなくて、草生ひしげりたるを、長々とたたざまにいけば、下は得ならざりける水の、深くはあらねど、人などの歩むに、はしりあがりたる、いとをかし。

左右にある垣にある、ものの枝などの、車の屋形などにさし入るを、急ぎてとらへて、折らむとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いと口惜しけれ。
蓬の、車におしひしがれたりけるが、輪の廻りたるに、近ううちかかりたるも、をかし。


五月の頃になど、山里に出掛けるのは、とても楽しい。
草の葉も水も、ずうっと一面が青一色に見えるが、時には、表面はどうということがないので、草が生い茂ったところを、ぞろぞろと一列になってゆくと、茂みの下には結構たっぷりと水があって、深くはないけれど、従者たちが歩く足もとから、水が跳ね上がって来るのが、とても面白い。

左右にある垣根に生えている、何かの枝などが、車の屋形などに差し込んでくるのを、素早く捕まえて、折ろうとするのですが、すっと通り過ぎて逃げて行ってしまうのが、とても残念です。
蓬の車輪に押しつぶされたものが、輪にくっついて、車輪が回るにつれて持ち上げられて、近くにあたるのですが、蓬の香りが伝わってきて風情があります。



新緑の候のドライブ、あるいはピクニックといったところです。
宮仕えとは関係のない、少納言さまのプライベートなお楽しみのようです。この文章などからは、やはり、貴族らしい豊かさが覗いているように思われます。
コメント
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