雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

九月二十日あまり

2014-07-10 11:00:26 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百十一段  九月二十日あまり

九月二十日あまりのほど、泊瀬(ハセ)に詣でて、いとはかなき家に泊りたりしに、いと苦しくて、ただ寝に寝入りぬ。
夜更けて、月の、窓より洩りたりしに、人の、臥したりしどもが衣の上に、白うて映りなどしたりしこそ、「いみじうあはれ」と、おぼえしか。
さやうなるをりぞ、人、歌詠むかし。


九月二十日過ぎの頃、泊瀬に詣でて、ごく粗末な家に泊まりましたが、すっかりくたびれて、すぐにぐっすりと寝込んでしまいました。
夜が更けて、ふと目を覚ましますと、月の光が、窓から差し込んでいましたが、寝ている人たちの上にかけた衣の上に、白々と映えていたりするさまは、「とてもすばらしい」と、感じたことでした。
このような時にこそ、人は歌を詠むものなんでしょうね。



当時、泊瀬(長谷)観音は大変多くの人々の信仰を集めていたようです。短いですが、この章段は少納言さまが実際に詣でられた時の経験でしょう。泊瀬に関する記事は、他の章段でも登場しています。

最後の部分ですが、「さやうなるをりぞ、人、歌詠むかし」と、いたく感動されていますが、中宮から歌は詠まなくてもよいというお墨付きをもらっているとはいえ、ここでは歌を残していないようです。
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