雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

きみは虹を見たか   第二回

2010-11-02 10:41:59 | きみは虹を見たか
          ( 1 - 2 )

展覧会のあとのレストランでの楽しい食事から、一週間ほど経った日のことです。今度は、正雄くんがたいへんつらい気持ちになることが起きてしまいました。

入賞した絵の賞品として、正雄くんは図書カードをもらいました。展覧会の主催者から郵便で送られてきたのです。
正雄くんはとてもうれしくて、ゲームの解説が載っている本を買おうと考えました。買いたい本は何冊もあるのですが、とても全部は買えませんが、二冊か、うまくいけば三冊買えるはずです。

夕食のあと、正雄くんはお父さんにその話をしました。前から欲しいと思っていた本の名前を何冊か言って、絶対欲しいと頼みました。
「正雄が賞品としてもらったものだから、欲しい本を買っていいよ。でも、図書カードの半分はお姉ちゃんにあげなくてはいけないよ」
と、お父さんはにこやかに正雄くんに話しました。

正雄くんは、頭の中で考えました。それだと、欲しい本が一冊しか買えません。どれも前から欲しいと思っていたものばかりで、三冊にしぼるのさえ大変なくらいなのです。
「でも、どれも、欲しい本ばかりなんだ。半分お姉ちゃんにあげると買えなくなってしまうよ・・・」
「あんなにすばらしい絵を描いたご褒美としてもらったものだから、それは、お姉ちゃんと半分ずつにしないといけないよ。全部でなくても、買える分だけにしたらいいじゃないか」
「でも、これは、僕がもらった図書カードだよ・・・」

お父さんが怒りかけているのが、正雄くんには分かっていました。お母さんと違って、お父さんはあまり怒らないのですが、お父さんに叱られる時はいつも自分の方が悪いことも分かっていました。でも、正雄くんは、どの本もどうしても欲しかったのです。
「じゃあ、一枚だけお姉ちゃんにあげる」
正雄くんは、六枚ある図書カードのうちの一枚だけお姉ちゃんに投げるようにして渡しました。

「なぜ、分からないんだ」
お父さんが大きな声を出しました。
「そんなもの、いらない」
お姉ちゃんは泣きそうな声で言うと、二階の自分の部屋へ走って行きました。

正雄くんは、お姉ちゃんを泣かすようなことはしていないのにと思いながらも、いつにないお父さんの怒り方に、どうしたらいいのか分からなくなってしまいました。
「こんなもの、ぼくもいらない」

正雄くんは、残りの図書カードや入っていた封筒などを一緒にテーブルに叩きつけると、やはり二階にある自分の部屋に駆け込みました。そして、そのままベッドにもぐりこみました。
すると、なぜだか涙が出てきて、それから泣いてしまいました。

これまでも、お姉ちゃんが何かをもらった時は、たいていは、半分正雄くんにくれていました。もらう時は、それが当たり前だと思っていました。
正雄くんが賞品をもらうのは今回が初めてですが、お姉ちゃんと分けるべきだということはよく分かっているのです。でも、どうしてもゲームの本が欲しかったのです。

ベッドの中で泣きじゃくりながら、正雄くんは、とても腹立たしく、つらい気持ちになっていました。


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