雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

虫は

2015-01-15 11:00:56 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第四十段  虫は

虫は、
鈴虫。
茅蜩。
蝶。
     (以下割愛)


虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。

松虫。きりぎりす(今のコオロギ)。はたおり(今のキリギリス)。われから(藻につく虫で鳴くとは思えないが、和歌からの引用らしい)。ひを虫(かげろう)。蛍。

蓑虫は、実に哀れを誘うものですね。鬼が生んだということですから、「親に似て、この子も恐ろしい心を持っているのだろう」と、親はみすばらしい衣を巻きつけるように着せて、「すぐに秋風が吹くので、その時には迎えに来るから待っているんだよ」と言い置いて逃げていってしまったことも知らないで、風の音を聞き分けて、八月頃(旧暦)になると、「ちちよ、ちちよ」と心細げに鳴くのです。まことに哀れなことです。

額づき虫(コメツキムシ)もまた、哀れなことです。あんなに小さな虫なのに信仰心を起こして、額を付けて拝みまわっているのでしょうね。思いもしない暗い所で、ことこと音を立てて回っているのはおかしいけれど。

蠅こそは、憎らしい物のうちに入れてしまうべきもので、愛嬌がないことこの上ない。一人前の敵とするほどの大きさではありませんが、秋などには、むやみやたらに色々な物にとまるし、顔などには濡れた足のままとまっているんですからね。人の名前に「蠅」とついているのは、とても嫌です。

夏虫は、とてもおもしろくてかわいらしい。ともし火を手にとって近づけ、物語など見る時に本の上などを飛び回るのはとてもおもしろい。
蟻はとても嫌だけれど、身軽さは大したもので、水の上などを、どんどん歩き回っているのなどはおもしろい。



蓑虫に関する部分については、親にあたるのが男親なのか女親なのかと諸説があるようですが、ちょっと良いお話でしょう。とても切なくて、少納言さまの繊細な心が現れているように思うのです。

なお、「蠅」という字を姓名に使っている例は当時の記録されたものの中には見当たらないようで、よほど古代の人物か、あるいは庶民の呼び名などにはあったのかもしれません。
また、夏虫とは、火に集まる虫の総称のようですが、少納言さまが可愛いと表現されるほどですから、どのようなものを指しているのでしょうか。

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