雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

草木にも心あり ・ 今昔物語 ( 10 - 27 )

2024-05-20 11:39:56 | 今昔物語拾い読み ・ その2

     『 草木にも心あり ・ 今昔物語 ( 10 - 27 ) 』


今は昔、 
震旦の[ 欠字。「漢」らしい。]の御代に、三人の兄弟がいた。兄を田達(デンタツ・伝不詳)と言い、次を田旬(デンジュン・伝不詳)と言い、その次を田烟(デンエン・伝不詳)と言った。
父母が死んだ後、三人は共に一つの家に住んで生活していた。
その家には紫の荊(イバラ)があった。四季に花が咲き、たいそう趣きがあった。その為、世に稀な物と言って、見る人は皆、この荊を誉めないと言うことがなかった。

ところが、どういう事があったのか、この三人の兄弟は同じ思いで相談し合って、「さあ、我等はこの家を売って、その代金を三つに分けて、三人がそれぞれ受け取って、此処を去ろう」と言って、すぐに家を売り、代金をそれぞれが受け取って去ろうとした日、この荊を翌朝に、三つに分けて掘り取って持ち去ることにしていたが、その夜、突然その荊が姿を消した。兄弟たちが翌朝見ると、荊は無くなっていた。

そこで、三人の兄弟は、また相談し合って、「あの荊、誰も取らないのに無くなってしまった。これは、我等が此処を去るためだろう。ということは、草木でさえ別れを悲しんでいるのだろう。いわんや、人も同じあろう。されば、我等は、此処を去らないことにしよう」と言って、すぐに代金を返却して、三人共に本のように住むことにした。すると、荊も、またさかんに生じて、本のようになった。
されば、草木も皆、昔はこのようであったのだ、
となむ語り伝へたるとや。

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