『 純愛に生きる ・ 今昔物語 ( 10 - 26 ) 』
今は昔、
震旦の漢の御代に、文君(ブンクン・卓王孫という富豪の娘。)という女がいた。容姿端麗なること、並ぶ者とてなかった。
国王に仕えると、国王はこの女を寵愛なさること限りなかった。また、文君に会う人もその姿の美しさを賞めない者がいなかった。その為、文君を妻にしようと思いを寄せる者も多かったが、未だ年若く男と交わることなく、宮中に住んでいた。
その当時、相如(ショウジョ・文人として名高い。)という男がいた。年は若く、容姿は美麗である。また、箏(ショウノコト・十三絃の琴)を弾くことが並ぶ者とてないほど巧みであった。その弾くのを聞いて賞めない人はいなかった。
ある時、相如が簾(ス)の外で箏を弾いていたが、文君が簾の内にいてこれを聞き、しみじみと哀れですばらしい音色であった。感にたえずして、一晩中寝もしないで聞いていた。相如もそれを知って、わざの限りを尽くして箏を弾き続けた。
暁にいたる頃、文君はこれを聞くほどに身にしみて哀れに思ったので、簾の外に出て相如に会った。
相如は、長年の間文君に心を寄せていたので、このように会えたので、嬉しさの余り、文君を掻き抱いて、密かに連れ出した。そして、家に連れて行き、末永く契りを交わして同棲していたが、世間では全く噂にならなかった。
その為、文君の父は、文君はきっと失踪したのだと思って、大騒ぎして四方八方捜し回ったが、捜し出すことが出来なかった。
その後二年経って、文君の父は、遂にこの事を聞きつけた。父は大変喜び、寝具並びに銭三万を贈り届けた。
文君は、感激のあまり身分を棄てて相如と結ばれたが、その思いはどれほどであったろうと、当時の人々は噂しあったという、
となむ語り伝へたるとや。
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