『 青竜を助ける ・ 今昔物語 ( 10 - 38 ) 』
今は昔、
震旦に一人の猟師がいた。
海辺に山が突き出している所に行き、鹿がやって来るのを待ち伏せて射ようと思って隠れていたが、ふと見ると、海の中から二つの竜が出てきた。一つは青く、一つは赤い。この二つの竜は、互いに噛み合って戦っていた。
猟師は、「不思議な事だ」と見ていると、一時(イットキ・二時間ほど)ばかり戦って、青竜が負けて逃げ出した。
猟師は、その夜、その場所で野宿した。
次の日、見ていると、昨日と同じ時刻になると、また、あの二つの竜が現れた。昨日と同じように噛み合って戦っていたが、また青竜が負けて逃げ出した。これで二日、青竜の負けである。
猟師は、この事を見るために、さらに、その夜もその場所で野宿した。
三日目にも、また、二つの竜が現れた。前のように噛み合ったが、また、青竜が負けそうで、弱く見えた。見ているうちに、とても可哀想になってきた。
そこで、猟師は、「この三日間見たところ、二日間はすでに青竜が負けている。青竜を助けるために赤竜を射殺してやろう」と思って、矢をつがえて赤竜に狙いを定めて射ると、赤竜の真ん中にあたった。すると、赤竜は逃げ出して、海中に入った。これによって、青竜は無事であり、それもまた、海の中に入っていった。
その後、猟師がなおも見ていると、青竜が海の中から出て来た。玉を咥えていて、陸を目指してやって来る。そこで、猟師は、「青竜が海の中から出て来たぞ。敵が射られたので、勝つことが出来たのだ。それは、儂のお陰である。されば、その恩に報いるために、宝珠を持ってきて、儂にくれようとしているのだ」と思って、海辺に近寄ると、青竜は猟師を見て、ますます近づいてきて、玉を陸に吐き置いて、海の中に帰っていった。
そこで、猟師は玉を手に入れて、家に帰った。
その後、諸々の財宝が、思うがままに集まって、不足することがなかった。その為、家は豊かになり、財宝が満ちあふれた。
これは不思議な事だ、
となむ世に語り伝へたるとや。
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