『 妍子の東宮参入 ・ 望月の宴 ( 126 ) 』
さて、内裏も焼亡したので、帝は今内裏にお住まいである。東宮(居貞親王)は枇杷殿にいらっしゃる。
十二月になったので、督の殿(カミノトノ・尚侍のこと。道長の次女、妍子。)が東宮へ参入なさることになる。少し前からそのおつもりであったことなので、並々ならぬ儀式で参上なさる。
まことに驚くばかりの時世というのであろう、長年、殿(道長)にお仕えの方々の妻や娘なども皆加わって、大人四十人、童女六人、下仕え四人がお供する。督の殿の御有様をお話し続けるのも、いつもと同じようではあるが、とはいえ、少しは申し上げないわけにもいきますまい。
督の殿は、御年十六歳でいらっしゃる。このご姉妹は、皆様御髪が見事でいらっしゃるが、中でもこのお方は特に優れていらっしゃって、仰々しいほどに豊かでいらっしゃる。
東宮はとても満足なさっていて、たいそう大切にもてなし申される。宮中は、いっそう華やかさが増すことであろう。
お手回りの御道具類も、中宮(彰子)が入内なさったときには、輝く藤壺と、世間の人たちがもてはやされたが、この度の御参入の見事さも言い尽くすことが出来ない。
あれから十年ばかり経過しているので、どれくらい多くの事が変ったのか、そのほどを推し量って欲しい。
こうして、督の殿が参入なさったが、東宮はたいそうお年を召していらっしゃるので(居貞親王は、この時三十四歳。)、たいそう気恥ずかしく、もったいなくも思われて、様々なお心遣いは並大抵ではなかった。
長年、宣耀殿女御(センヨウデンノニョウゴ・藤原娍子。この時三十八歳。)を、またとないお方としてお扱いなさっていたが、驚くばかりにお若いお年なので、まるでわが姫宮(九歳と七歳。)たちを大切に可愛がられるかのようなお気持ちで接しておられるようにお見受けする。
数日お過ごしのうちに、しだいにお慣れになられるご様子も、いよいよ何ともいえず愛らしいお方だとお思いである。夜ごとの御宿直は言うまでもなく、昼の間も、今はもっぱらこの督の殿の御部屋にばかりいらっしゃる。
督の殿がお持ちになった御道具などを片端から開け広げて、御目を止めて一通り御覧になられ、これはこれはと、目を見はらせてすばらしいものと見入られていらっしゃる。
御櫛の筥の内のしつらいや、数々の小筥の中に入れてある物はもちろんのこと、殿の上(倫子)や君達(公達に同じ。妍子の男の兄弟を指している。)などが我も我もと競い合ってご用意した物なので、東宮は興味深くご覧になられる。
中宮(彰子)の入内の時の御道具も、殿(道長)はこのように御心づくしの品々を指図してご用意なさったのであろう。
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