雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

病膏肓に入る ・ 今昔物語 ( 10 - 23 )

2024-05-20 11:42:06 | 今昔物語拾い読み ・ その2

     『 病膏肓に入る ・ 今昔物語 ( 10 - 23 ) 』


今は昔、
震旦の[ 欠字。「周」らしい。]の御代に、身に重い病を受けた人がいた。
当時、大変勝れた医師がいた。その病の人は、その病を治療するために、その医師を招いたところ、医師はすぐに往診を承諾した。

医師は、その夜の夢に、かの病は突然二人の童の姿になって嘆きながら、「我等、あの医師のためにやられてしまうだろう。どうすればいいだろう。どこかに逃げることにしよう」と言うと、もう一人の童は、「我等は、肓の上(コウノウエ・横隔膜の上の隠れた部分。胆の下。)と膏の下(コウノシタ・心臓の下の部分。胆の上。)に入っているので、あの医師がどうして我等をやっつけることが出来ようか」と言う、と見たところで夢が覚めた。
その後、医師は病気の人のもとに行って、診察をして言った。「私には、この病を治すことが出来ません。針も効きませんし、薬でも治療できません」と言って、治療することなく帰ってしまったので、病気の者は、間もなく死んでしまった。
胆の下を肓と言い、胆の上を膏と言い、その所に至った病は、治療の方法はなく、このように言うのであろう。

その後、また、重い病を受けた人がいた。同じ医師を招いて、病を治療させようとしたが、医師が招きに応じて患者のもとに向かう途中で、突然二人の鬼が現れて、嘆きながら「我等は、遂にこの医師の為にやっつけられてしまう。どうすればいいだろう」と言うと、前の夢で言っていたように、もう一人の鬼が、「我等は、肓の上、膏の下に入っているので、医師の力などけっして届くまい」と言う。すると、また一人が、「もし、八毒丸を飲ませるかもしれない」と言うと、もう一人が「その時には、我等はどうすることも出来ない」と言うのを聞いて、医師は、患者の所に急いで行き、この度は八毒丸を飲ませた。病んでいた者がこれを飲むと、病は、たちまちのうちに癒えた。
されば、病にも皆魂が宿っているので、このように言うのだ、
となむ語り伝へたるとや。

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