雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

六位蔵人などは

2014-08-25 11:00:53 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百七十段  六位蔵人などは

六位蔵人などは、思ひかくべきことにもあらず。
冠(カウブリ)得て、何の権守・大夫などいふ人の、板屋などの狭き家持たりて、また、小檜垣などいふもの新しくして、車宿に車ひき立て、前近く一尺ばかりなる木生(オ)ほして、牛つなぎて草など飼はするこそ、いと憎けれ。
     (以下割愛)


六位の蔵人にある人は、次のようなことを思い描いてはいけません。
五位に叙せられて、何の国の権守や何の大夫などという立場になり、粗末な板屋根の狭い家を所有し、また、貧弱な小檜垣とかいう物を新しくして、車宿りに牛車を引き入れ、家の前近くに一尺ばかりの杭を立てて、それに牛をつないで草など食べさせている様子なんて、ほんとに腹が立つ。

庭は(狭いので)とても美しく掃き、紫皮の帽額(モコウ・簾の上端に横に張った布、上等の物は絹糸)を付けた伊予簾をかけ、障子は布を張った粗末なものといった家に住んでいて、夜は、「戸締りをしっかりせよ」などと、召使に言いつけている様子は、いかにも将来性が感じられず、気に入りません。

自分の親の家や妻の父の家はもちろん、叔父や兄などの別宅とか、そのような都合のよい縁者がない者は、自然と親しく付き合うようになった受領(国司)で、任地へ行って空いたままになっていそうな家、でなければ、院や宮様方の、沢山屋敷をお持ちのどれかに留守番を兼ねて住んだりして、叙爵したからといって慌てて安普請のわが家を持つより、さらに昇進してから、さっと上等の屋敷を探して買い取って、住むことが良いのですよ。



枕草子には、六位蔵人がたびたび登場してきます。少納言さまお気に入りの職掌と見えますが、同時に、その後に五位に昇った後の生活ぶりが、お気に入ることが少なかったようです。

六位というのは殿上の間に昇ることはできませんが、蔵人だけは天皇の身の回りの御世話などをする職掌がら殿上人と同じように宮中で行動できたようです。時には、天皇の名代として使者に立つこともあり、晴れやかな機会も少なくなかったようです。
少納言さまの生家のような中下級の貴族にとって、六位蔵人は憧れの地位でもあったのでしょう。

六位蔵人は、任期の六年が満ちると巡爵といって従五位下に叙せられました。ところが、任期満了を待たずに叙爵を受けて実入りのよい受領などになることを願う者が増えていて、その風潮が、少納言さまは特にお気にいらなかったようです。
なお、文中の「院」は、上皇、法皇、女院をさし、「宮」とは、親王、内親王をさします。

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