雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

王難に遭う ・ 今昔物語 ( 12 - 16 )

2017-10-06 11:48:38 | 今昔物語拾い読み ・ その3
          王難に遭う ・ 今昔物語 ( 12 - 16 )

今は昔、
聖武天皇の御代、神亀四年(727)という年の九月の中旬の頃、天皇は多くの臣下と共に狩猟にお出かけになられたが、添上郡山村の山で、一匹の鹿が出てきて、網見(アミ)の里の百姓(当時は、貴族・官吏以外の庶民すべてを指した)の家に走り込んだ。
その家の者は、その鹿が天皇が追い込んだものとは知らず、鹿を殺して食べてしまった。

その後、天皇はこの事をお聞きになり、使いを遣わして、その鹿を食った者どもを捕えさせた。その時、男女十余人がみなこの難にあい、身を震わせ恐怖におののいたが、助けを求める手段とてなかった。
ただ、「三宝(サンポウ・仏・法・僧)の加護無くしては、この災難を助けてくれるものはない」と思いついて、「私たちが伝え聞いたところによれば、『大安寺の丈六の釈迦仏は、よく人の願いを聞き届けてくださる』とのことです。さすれば、なにとぞ私たちの災難をぜひともお救い下さい」と言って、さっそく使いを寺に参らせて、誦経を行わせた。
また、「私たちが役所に連れて行かれる時には、寺の南の門を開いて、私たちが礼拝できるようにしてください。また、私たちが刑罰を受ける時には、鐘をついてその音を聞かせてください」とお願いさせた。

すると、寺の僧はこの願いに同情して、鐘を突き誦経を行った。また、南の門を開き礼拝できるようにしてやった。捕らわれていた者どもは、早くも使いに引き立てられてやって来て、まさに刑を受けようとするときに、にわかに皇子が誕生されたのである。
これによって、「朝廷の大きな祝賀である」ということで、全国に大赦が行われた。その恩恵でこれらの者どもの刑罰は免除され、かえって祝いの品をいただいたのである。

そこで、この十余人は大いに喜び、「まことに、これこそ大安寺の釈迦仏の御威光であり、誦経の功徳のいたすところだ」と思って、以前にも増して、信心し礼拝し奉った。
しかれば、人々がもし天皇の咎めを受けることになった時には、心をこめて御仏を念じ誦経を行うべきである、
となむ語り伝へたるとや。

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