雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

機転により祖父を救う ・ 今昔物語 ( 9 - 45 )

2023-07-25 08:25:16 | 今昔物語拾い読み ・ その2

      『 機転により祖父を救う ・ 今昔物語 ( 9 - 45 ) 』  


今は昔、
震旦の[ 欠字。王朝名が入るが不詳。]の時代、厚谷(コウコク)という人がいた。楚(春秋戦国時代に長江中流にあった国。)の人である。
その父は、不孝の人で、自分の父がなかなか死なないことをいつも嫌がっていた。
ある時、厚谷の父は、一つの輿(コシ)を造り、それに老いた父を乗せて、息子の厚谷と共にその輿を担って、深い山に連れて行き、父を棄て置いて家に帰った。

ところが、厚谷は、この祖父を乗せていた輿を家に持って帰った。
父はそれを見て、厚谷に言った。「お前は、どういうわけでその輿を持って帰ってきたのか」と。
厚谷は、「人の子は、老いた父を輿に乗せて山に棄てるものなのだと知りました。そうだとすれば、私の父をも、老いた時には、この輿に乗せて山に棄てます。その時に、改めて新しい輿を造る必要がありませんので」と答えた。
父はこれを聞いて、「それでは、わしも老いた時には、必ず棄てられるのか」と思って、恐れ惑って、すぐに山に行って、棄て置いていた父を連れて帰った。その後は、厚谷の父は、老いた父に孝養を尽くすことを怠らなかった。
これは、ひとえに厚谷の機転によるものである。

されば、世間は挙って厚谷を誉め称え感心すること限りなかった。祖父の命を救い、父に孝養を尽くさせたことは、これこそ賢人というのである、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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