『 血の繋がらない父子 ・ 今昔物語 ( 9 - 46 ) 』
今は昔、
震旦の[ 欠字。王朝名が入るが不詳。]の時代に、三人の人が、それぞれ家を棄て、郷を離れて、偶然に一本の樹の下にやって来て、共に宿を取った。
一人の人が、「あなた方は、どちらの方で、いずれの国に行かれるのですか」と尋ねた。
すると、尋ねられた二人は、「生きていくために、家を離れて流浪するつもりです」と答えた。
「されば、我等三人は、皆、前世の契りがあって、このように巡り会ったのだ」と言って、深い契りを結び、永く親交を誓った。
そこで、この中の年長の者を父とし、若い二人をその子とすることになり、その父を大切にして食事の世話などをした。手にすることが出来た物を、あれこれ区別することなく、この父に孝養を尽くすこと、実の父母に対するより勝っていた。
ある時、父は子らの心を試してみようと思って、二人の子に、「わしは、河の中に家を建てて住居にしたいと思う」と言った。
二人の子は、これを聞いてからは、ある河に土を運んで入れていたが、土は流されてしまってまったく留まらない。三年の間、このように土を運び続けたが、盛り土を造ることが出来なかった。
そこで、二人の子は嘆いて、「我等、まことに不孝の身となった。父の命を叶えることが出来ない」と言って、嘆きながら寝た夜の夢に、一人の人が現れて、土塊(ツチクレ)を取って、河の中に投げ入れるのを見たところで、夢が覚めた。
明くる朝、見れば、河の中に土が数十丈も埋められていて、その上に家が数十軒建てられていた。これを見聞きした人は、「不思議な事だ」と思って、大勢の人がやって来て大騒ぎした。
これは、孝養の志が実(マコト)なることを知って、天神が感嘆し心を動かされて、一夜のうちに河の中に丘を築き、たくさんの家を建てて、父を住まわせたのである。
これを聞いて、誉め称え貴く思わない者はいなかった。
実の父ではないと言えども、心を尽くせば天神の加護は必ずある。いわんや、骨肉を受けた(血の繋がった)父のために孝養を尽くす徳は思いやるべし、
となむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます