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都市計画と経済学を京都で考えています。楽しみは食べ歩き、テニス、庭園、絵画作成・鑑賞、オーディオと自転車

学芸セミナー 「全貌 日本庭園─象徴庭園から抽象枯山水へ」(中田 勝康):庭の歴史と5系列のマトリクス、具象・象徴・抽象の3区分マトリクスは興味深いが、時間が足りず不完全燃焼

2020-12-08 02:00:24 | 趣味

 「全貌 日本庭園─象徴庭園から抽象枯山水へ」(5,600円税別)を6千円で買うとセミナー(1,000円)が無料になるのもあり購入。事前に図書館から借りて目を通すと庭の歴史と詳細、マトリクスに分けた解説、100庭園の事例など資料として使える大作だ。

 中田氏は’41年生まれであり、言葉が不明瞭で、重森三玲の一部の庭についてGraphicという単語がなかなか出てこないなど喋りは得意ではないご様子だった。盛り沢山の内容のため2時間20分に渡る講演はちょっと散漫になっていたのは残念だ。(NHKでも講座があるとのこと https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1220374.html )

 マトリクス1として①神仙蓬莱、②池泉、③抽象枯山水、④石組構成美、⑤幾何学模様を横軸に、時代と外来思想(神仙蓬莱、極楽浄土、禅宗(水墨画)、幾何学模様、ヨーロッパ自然主義・抽象主義)で庭園を分類しているのは興味深い。

さらに、庭の抽象化度と造形の完成度のマトリクス2から、①具象、②象徴(Symbol)、③抽象(Abstraction)に分類し、龍安寺、雪舟、上田宗箇(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E7%94%B0%E9%87%8D%E5%AE%89 )、小堀遠州、重森三玲を抽象に、物語の視覚化と自然の表象化を象徴に、箱庭と自然を具象に位置付けている。

知見は:

・平面的に加え、立体的な遠近法(常栄寺)は貴重な指摘

・龍安寺の石庭も玄関からの眺めで配置が、直線的な軸線と両側にある石も面の向きので説明ができる、これは卓見だ、平面図だけでなく移動する視点の観点だ

・大徳寺の方丈庭園にある龍門瀑は右横から見ないと鯉など分からない仕掛け

・徳島の青石は重森三玲のお気に入り:薬王山 金色院 國分寺など

・徳島城の鶴島は植物と苔を除いて判明

・重森三玲のGraphic庭園:振袖、城郭、色分け、植物の花で四季の変化など

・道教の神仙蓬莱、仏教の須弥山と三尊石

・金剛界曼荼羅の成身会(中心にある)の方位と立体曼荼羅の入口方向への回転は貴重な示唆だ

・護岸で龍を表現:碧巌録にある龍門瀑(三級波高魚化龍)の変化した姿、宝珠が証となる徳島城の事例

・禅は水墨画に通じ、三山五岳やオーバーハングが象徴

・桂離宮の松琴亭手前の白川橋は浄土真宗の二川白道(智仁親王の娘 梅宮が良如に嫁いだ関係)→確かに流れ手水が「水の河」で奥の火炎(西向き)などあるがこじつけではないか。昔は丹塗りの太鼓橋が正面にあり、白川橋は茶室への案内に特化のはず、または、拝観できないが四ツ腰掛(卍亭)からの景観形成の可能性もある

・桂の護岸は多様、修学院は単調→両方とも池の周りは檜杭(やり替え工事を実査した)であり、指摘の桂の石護岸は天橋立など松琴亭の北側に多いのみ

 但し、当方は庭園の専門家ではないが上記の分類・指摘などに異論もある。

 桂と修学院離宮を曲線と直線の対比という意見は違うと思う。桂は飛石と延段で「足裏から感じる」歩く庭であり、修学院は、白川砂を引いた道は馬車(明治以降)などで、あとは階段が多い。また、内側に向かう閉じた世界の形成と繊細なMicroが桂なら、外側に向かい京都と比叡山両側の景色を楽しむMacroが修学院と対比している。また、筆者のマトリクス1では抽象枯山水の流行の後に池泉の復活としても位置付けられるのではないか。

 このように、鑑賞する主体に対し何を訴えるのかで区分する方法もあると思う。例えば、書斎から眺める、歩いて楽しむ、船で楽しむ、遠望を楽しむ、宴会(大名庭園)をする、集会(明治の豪邸)をするなど、行動に伴う「感覚」や用途としての「意義」を主体にするのも一手と思う。

 西洋絵画が、宗教画、王侯の人物画、集団記念画、静物画、風景画、抽象画への進化は、需要(信仰、権威、記念、純粋芸術など)と供給(個人、工房)や絵具の進化と結びついているのと同じだ。

 本著は分類が面白いが、これだけが庭の要素でもないと思う。理由として、要素がてんこ盛りの庭もあるが簡素な庭もある。これなら絵画も同じだが、庭には四季や天気(晴天、雨など)の変化もあり、さらに巡り歩き五感からの要素が自分と対峙する鏡になるように思う。桂・修学院を100回超えて拝観するなかで、逆に自分自身の変化や状態を知ることができると感じた。

 まとめとして、データが多く、さらに庭を巡る予定と考えが湧き出る著作で専門家向けだ

コメント
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