帯状疱疹に罹患し、安静の1週間に読んだ。600ページの12巻のため、結構時間がかかった。週刊朝日の連載(1974年12月から83年4月の8年半 作者の50代であぶらが乗り切った頃)であり、定期購読をしていたが、司馬遼太郎の「街道を行く」とともに「延々と続いているな」と横目に見ていた。週刊朝日の全盛期でありデキゴトロジーも面白かった。
今の世に生まれてよかったと思った。信長・秀吉・家康の時代は、人質と婚姻によりがんじがらめになり、意向を伺いながら策略があり、さらに思いがけない殺戮や戦いがあった。これはストレスの多い時代であり、信長と秀吉の豪奢志向も分かる。この時期の農民などはさらに不安だったと思う。中世は寒冷期でもあり農業生産は停滞し、政情も世界中不安定な時代でもあった。
真田幸村と真田家の物語だが、
①草の者として忍び、お江がヒロイン(家康の忍びの者活用に対抗の位置付)
②真田父子と兄の関係、真田家の2回にわたる家康軍撃退(上田城攻めと関ヶ原の戦いhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A2%E3%83%B6%E5%8E%9F%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84 )と大坂城冬と夏の陣の戦い( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%9D%82%E3%81%AE%E9%99%A3 )、徳川秀忠の真田分家への復讐につながる
③10年しか続かなかった豊臣は、建設と戦いに明け暮れ、家臣を育てなかった
④家康は家臣の組織体制構築と情報網の完備により優位な戦いと永続性を構築した
と、経営論のような歴史を踏まえたノンフィクションからの分析と、「草のもの」という忍者の戦いというフィクションとアクションを縄のように織り込んでいる。
また、「女という生き物は、何事につけても『よいことのみ・・・・・・』を、おもっている」という文中の見解も、江戸時代の「生み育てる女性と戦う男性」の区分に従っているかと思う。そのなかで草の者のお江は女性として特異な存在であり、現実主義的な判断と戦略・行動がある。さらに女忍びとして男の戦いの物語に一点の華となっている。
「豊国祭礼図を読む」(黒田日出男)にもあるが、豊臣家後継の秀頼と淀殿の母子依存と高台院への反感、元部下の家康への嫌悪、さらに政治力とまとまりがない家臣の判断の先送りに苦々しさを感じる。関ヶ原の戦いの日和見状況、大坂城冬の陣の安易な講和という「だらだら」とした豊臣の没落の原因は秀吉の不運な世継ぎ問題が背景にある。
かたや家康( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B3%E5%B7%9D%E5%AE%B6%E5%BA%B7 )は組織構築を進め70代まで待ち大坂城と豊臣家を滅亡させたのは一貫した執念と戦略を感じる。
本作は池波の人生観である「人の一生なぞというものは、まことに、はかないものだ・・・・・・」、「人の一生などわけもない」が文中にある。
銀座日記の最後にも「ま、仕方がない。こんなところが順当なのだろう。いま、いちばん食べたいものを考える。考えても思い浮かばない。」とある。
90年5月に67歳に急性白血病により、入院後3か月で亡くなった。年初から山の上ホテルにて「足がもつれるのだ」と転倒していた。ちょうどこの頃留学しており、帰国してから知った。
この年齢は今の当方とあまり年齢が違わない。
毎日の飲酒と喫煙、スポーツはせず散歩程度に映画。生き方に「楽しみの追求」がある。
しかし、晩年は有楽町にあった中華の慶楽(閉業)でも焼きそばにビールはコップ2杯と飲めなくなっていた。
食べ物も、親子丼ともりそばなどの濃い「江戸の味」を好み、塩分過多と野菜不足であり健康的ではなかった。(個人的に思うが、天丼・親子丼や天ぷらそばにはお浸しなどをつけるのが良いと思う)
働きながら書いていた名残か、遅く起きてお昼にご飯(第一食)、映画を観る、夕方の混む前に食べに行き酒を飲むか夕食(第二食)、仮眠を取り、その後仕事、夜中に夜食、朝方まで仕事し、眠る。不規則とも思えるが、締め切り前に原稿を渡すという自律と几帳面な仕事ぶりを聞いている。
特に喫煙は缶ピース(50本 https://www.tabako-sakuranbo.co.jp/goods/goods-1035.php )というタールとニコチンの含有が高い煙草を最低1缶のうえ「キセルやシガレットホルダーに詰めて最後まで喫う」( https://macaro-ni.jp/32807 )と知った。これが急性白血病の病因になったのではと思う。( https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/7887.html )
さらに、ここまで煙草を吸うと果たして食べ物の味が分かったのかと訝る。濃い江戸の味好みもそのためだったのか。部屋も服も煙草の臭いがしたと思う。
この90年頃はオフィスの机に灰皿があった。ヘビースモーカーの灰皿は朝てんこ盛りになっていたのを女子職員が洗っていたのを思い出す。1992年のバブル崩壊後からオフィスは順次禁煙になり喫煙室が設けられたが、応接室やプロジェクト・ルームでの設計打合など煙で向こうが見えなくなっていた。その後、これらの部屋も禁煙になったが。
また、寿司屋のつけ前でも煙草は自由で、難儀したのを覚えている。今では考えられないが。
12巻読むのは、歴史も知っているため結構飽きて来る。池波のこの物語では無常を感じ、陰鬱な気分になる。色々、池波の思い出がよみがえった。
今度は、続き物ではない「剣客商売」と「仕掛人・藤枝梅安」が未読のためそのうち読んでも良いが。元来、時代物、歴史物はあまり好みではない。昔の歴史から得るものはあるが、新しい観点の現代の産業や経済分析や都市計画関連の読みたい本を優先している。知見が更なる研究などに役立つ。
池波ならエッセイが好きだ、ほとんど読んだ。週刊朝日連載(1972~3年)の「食卓の情景」などは東京への憧れにつながった。「昔の味」、「散歩のとき何か食べたくなって」、「銀座日記」もバラバラになるまで読んでいる。