何らかの困り感から、持っている能力を、学習やほかの子らとの活動の場面で
きちんと発揮することができない子がいます。
春休み中のレッスンでも、そうした小学生たちのこんな姿を見かけました。
機転のきく会話からは、利発な子だと思われるのに、
問題を見たとたん、見慣れないものだと「わからない」と、突っぱねる子。
がんばり屋でまじめなのに、
相手の話や問題を把握する前に、早とちりして取りかかり、
必死でがんばるものの、時間だけを浪費している子。
ブロックの作品作りには、よく考えながら最後まで取り組めるのに、
プリント上の問題だと、どこを見ればいいのかもわからなくなってしまう子。
一つでもわからないことにぶつかると、
たちまち気持ちが萎えて、何もかも投げ出してしまう子。
語彙からイメージするのが苦手で、言葉で指示されただけだと、
何をしたらいいのか戸惑ってしまう子。
発達障害の診断を受けている子も受けていない子もいるのですが、
診断のあるなしは脇に置いておいて、
子どもが何に困っているか見極めて、「適切な」対応を取ることが重要だと
感じています。
というのも、
表面上の問題にだけ目を留めて「適切ではない」対応を取り続けているため、
子どもの問題を深刻化させることが多々あるからです。
それでは、教室でどんな対応をしているのか、
できるだけ具体的に書いていくことにしますね。
持っている力をきちんと発揮できない子のほとんどが、
注意を調節する力にアンバランスを持っています。
自分のしている課題に上の空だったり、すぐに飽きてそわそわしたり、
手だけを動かして頭では少しも考えていなかったり、
さまざまな情報の中から何に焦点を当てたらいいのかわからなかったり、
入ってくるたくさんの刺激の中から課題に必要なもの以外を締め出すことが
できなかったりするのです。
虹色教室で、注意の向け方に問題がある子に最も効果的だったのは、
行動をコントロールするための言葉を教えていくことです。
また、活動や学習の場面で、繰り返し内言の発達を助けるための
援助をすることです。
(内言とは、思考の道具として自分自身の内面で使う言葉のことです。)
それについて、『よみがえれ思考力』では、次のように取り上げられています。
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ロシアの心理学者ルリアは、注意の機能をつかさどる前頭葉は、
行動を統制する言葉を使うことでより発達すると考えている。
大人は脳が構築したこの「内言」を
問題解決や計画を練ることに利用する。
内言とは、文字どおり頭の中で自分自身に語りかけるものである。
幼い子どもでさえ活動とともに「独り言」をいうことで課題をよりうまく
解けるようになることが研究で解明されている。
たとえば、親は子どもが何をしているかを言葉で示してやり、
子ども自身が言葉を同時に使ったりするように仕向けることができる。
(たとえば「小麦粉をカップ半分測ろうと思うの。
カップ半分のしるしのところをみて。これくらいでいいかな」等)
『よみがえれ思考力』 ジェーン・ハーリー 大修館書店 からの引用)
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教室でも、「子どもが何をしているかを言葉で示してあげること」で、
子どもがこちらが見せるお手本を理解しやすくなり、
自分のしている活動に集中して取り組むようになるのを実感しています。
(昨年、就学準備グループに参加してもらった発達の凹凸がある子たちのほとんどが、
年長の春のスタート時は席に着くのも難しかったのですが、1年後、
集中して学習に取り組むようになりました。
理解力も向上したため、親御さんたちにとても喜んでいただきました。)
ただ、子どもの内言の発達を助けるために、どんな言葉を添えたらいいのか
難しいと感じる親御さんも多いようで、伝える難しさを感じています。
実際に、子どもと関わっている姿を見ていただくようにしても、
子どもがフリーズしてしまう言葉やそわそわしだすような言葉をかける方が
とても多いのです。
うまく言葉にできるかわかりませんが、実際のレッスンの様子から、
教室で、どのように行動を統制する言葉をかけているのか、書かせていただきますね。
春休みのレッスンに来てくれた、
新小学2年の★くん、☆くん、●くん。新小3の◎くん。
4人とも、それぞれ異なる困り感を抱えているようでした。
持っている能力をきちんと発揮することができない子たちは、たいてい、
自分がやりたいことを選んだり、「こんなことがしてみたい」と計画を練ったり、
それをするにはどんな手順が必要なのか、イメージしたりするのが苦手です。
新小学2年の★くん、☆くん、●くん、新小3の◎くんの4人に、
「今日は、こんなことやあんなこと……ができるのよ。どれかやってみたいことは
ある?」とたずねると、「ぼくね、ゲーム機持ってきたんだよ」とか
「あのね、ぼくのお母さんねぇ……」と、質問とはかけ離れた、ちぐはぐな返事を
繰り返すことが続きました。
「どんなことをするのが好き?好きな物を言うのでもいいわよ。何が好き?」と
質問すると、◎くんだけは、「電車が好き」と言いながら、持ってきた電車の本を
見せてくれたのですが、ほかの子らは、話している間中、寝転がったり、
ふざけだしたり、おもちゃの入っている引き出しを開けたりしていました。
話し合いがなかなか進まないので、電車が好きな◎くんにリードしてもらう形で、
全員がやることに納得した「電車のジオラマ作り」をすることにしました。
◎くんは、「こんなことがしたい、あんなことがしたい」とアイデアをたくさん出して
いましたが、それを実行に移す段になると、具体的に何をどうするのか考えていくのは
難しいようでした。
◎くんは、電車の路線図を指さしながら、「この丸くなってるところの駅は、
○○駅、○○駅、○○駅……だから、これにしよう」と言いました。
「大阪環状線ね。とてもいいアイデアね。それぞれの駅がどんなふうになっているのか、
駅にある施設が載っている『おおさかかんじょうせん』っていう写真絵本があるわ。
施設って、キッズプラザとか図書館とか動物園とか病院とか空港とか、
そういったものよ」と話をしながら、
線路として使っている梱包資材を何本か出してあげると、
◎くんは「いいねぇ、いいねぇ。これを丸くなるように置いたら環状線ができるよ」と
上機嫌でした。
イメージすることが難しい子たちと話をするとき、
わたしは話している内容について目で確かめたり、
手で動かしたりできるようにしています。
想像力が弱い子ほど、より具体的な言葉とイメージをつなぐ小道具が必要ですし、
ただ物を見せながら話すのではなく、
「ギーッ、ギーッと」とか「この紙をチョキチョキはさみで切って……」といった
擬態語や擬音語などを挟んで、身ぶり手ぶりも加えてわかりやすくした言葉を
添える必要を感じています。そうしながら、
「はさみで切ったあとに、何かしなきゃいけないよね。このままだと、ほら、
重ねてもひっつかないから……困ってしまうもの。どうすればいいの?」と
次にする行動を言葉にできるように支援しています。
また、常に意味や理由を目で見てわかる形で納得させたり、
その子が唐突に話しだす意味を伴わない話題が、今、話している話題の中で意味を
持つように言葉を添えたり、まったく関係のない行動を始めても、
それが今していることの中で意味を持つように助けています。
そうしながら、自分の話すことや行動が、実際、周囲と共有している会話や活動の中で
きちんと機能し、意味を持っていると実感できるようにしています。
このジオラマ作りでも、そうした言葉による手助けをすることで、
最初はてんでバラバラに動いていた子たちが、時間が経つにつれて、
協力しあいながら、集中して自分の作業に熱中したり、それぞれが状況にあった
自分の意見を口にできるようになっていきました。
教室内に『大阪環状線』をテーマにした電車のジオラマを作ることに決まったあと、
わたしは、「ジオラマ作りに関係があるものは、出して使ってもいいけれど、
全く関係のないおもちゃで勝手に遊んではダメよ。
関係がないおもちゃを触った人は、それがジオラマに関係するものになるように
先生とよく話しあいながら考えたり、作ったりして、責任を取ってもらいます!」
と約束事を伝えました。
が、そう伝えたすぐ後で、★くんは大きなまぐろのおもちゃを抱えて
ふざけだしました。
「★くん、これから、環状線のジオラマ作りをするんだったよね。
そのまぐろをジオラマに加えるなら、海を泳いでいることにするのか、
まぐろは淀川にいないけど、取りあえず淀川を作って泳がすのか、
ブロックや積み木で水族館を作って、まぐろを飼うのか決めないといけないわよ。
◎くんに地図と環状線の絵本を見せてもらって、
海や川や水族館がある環状線の駅がないか相談してね」と言いました。
すると、★くんは、わくわくした表情で、「淀川にする」と言って、
◎くんが広げている地図を覗きこみました。
◎くんは、うれしそうにニコニコしながら大阪湾を指さして、
「海ならあるんだよ。ちょっと駅から遠いけど、ほら。でも淀川はないなぁ」
と言いました。