『本当は怖い小学一年生(汐見稔幸/ポプラ新書)』を読みました。
本当は怖い……というタイトル、
おそらく他の著者のものだったら、手に取らなかったと思います。
二十数年前、長女が赤ちゃんだった頃から汐見先生の著書のファンなので、
タイトルへの先入観は捨てて読んでみたら、とてもよかったです。
現在の子育てと教育と社会のあり方について、深く考えさせられました。
読み終えて、自分の中で言語化できなくてモヤモヤくすぶっていたことが、
すっきりと整理できた気がします。
一年生を持つ親御さんはもちろん、幼児や小学生を育てている方々にも
ぜひ読んでいただきたい内容です。
内容の一部を簡単に紹介しますね。
「小一プロブレム」という言葉をご存じでしょうか?
授業中に歩き回ったり、おしゃべりをやめなかったり、廊下や校庭に飛び出したりする
小学校入学直後の一年生の状況を指して名づけられた言葉です。
東京都教育委員会の調査によると、11月の時点で、
「(不適応状況が)現在おさまっていない」と答えた学校が56.7%もあった
そうですから、事態は深刻です。
こうした現象は、どうも日本特有のもののようで、
「授業中の立ち歩き」「勝手なことをして集団行動がとれない」という報告は
海外ではあまり耳にしないのだとか。
どうして日本の子らだけが、そんな問題を起こすのでしょう?
日本の幼稚園や保育園は、先生が受け持つ生徒数などの関係上、
子どもが「ああしなさい」「こうしなさい」と過剰な指示を受けがちです。
その結果、「指示されたら動けばいい」「叱られたらやめたらいい」というように
適応してしまいます。
すると、自己の内部から規律を求める自律的な秩序感が芽生えにくくなるそうです。
小一プロブレムは、こうした子どもの自律的な秩序感の育ちの危うさともに、
学校のカリキュラムの内容や教え方が時代の変化についてきていないこと、
子どもに幼い頃からレールを敷く「早期教育」が、
「知っている」のに「分からない」子を作りだしていることなど、
さまざまな問題を背景としています。
この著書のすばらしいところは、小一プロブレムの話題を
「子どもの問題」「親の問題」「未就園児の集団教育の問題」といった悪者探しで
終わらせていないことです。
「旧来の学びスタイルを今世紀になっても続けていることから起こる問題ではないか」
という新しい捉え方、未来に向けての課題を提示してくださっています。
また、「今の子はこんなに困った面がある」「子どもにトラブルを起こさせない
ためには」「問題を解決するにはどうすればいいか」を語るだけでなく、
子どもが本来、秘めているすごい力や才能を認め、
「子ども扱いしなければ伸びる」という見方をしている点です。
「日本も面白い才能を持っている子をどんどん伸ばしていけるような
教育システムに変えていくべきだろう。」という提案、その通りだと思います。
ーーーーーーーーーー
学校の制度化が進むと、
「小一ならこの程度できればいい」と逆に子どもに「枠はめ」をするようになる。
たとえば配った算数の宿題プリント一ヶ月分を一日で全部やってしまった子を、
先生は「だめじゃない、これは一日一枚やってくるものなの」と逆に諭してしまう。
「そうか、簡単だったね!じゃ、もっと難しいプリントをやってみる?」
とはいかないのだ。
その子が将来、数学の天才になるかもしれないと思わず、
その子の力を伸ばしてやろうという算段もしない。
下手にその子を励ますと、その子だけ依怙贔屓していると他の親から文句を言われ、
みんな横並びのほうが教えやすいと考えてしまう。
こうして子どもが持っている類まれな理解力や探究心、それに行動力といったものは、
往々にして学校化された子ども観、能力観の中で押しとどめられてしまう。
『本当は怖い小学一年生』P45
ーーーーーーーーーー
外からの基準枠は、往々にして子どもの好奇心や探究心の発現を妨げてしまう。
社会的な行動基準は基本的に制止型の枠づけだからだ。
人は幼い頃に自分の情動からの行動基準で行動することが多ければ多いほど、
自主性や自尊感情、そして好奇心などが育ちやすくなる。(略)
大人は扱いやすい存在なので「よい子」をたくさん育てたくなるが、
感性や気持ちで行動する部分を自分で制限し、
大人が決めた「よい」か「わるい」かの判断部分を優先して成長することが多いため、
自分の本当の興味や関心に基づいて行動することが苦手になりがちだ。
そのまま大きくなると、自分は何を求めて生きているのか、
「自分でもよく分からない人間」になっていく。
『本当は怖い小学一年生』P47
ーーーーーーーーーー
子どもの潜在的な可能性は
「私はこれが好き」というこだわりを持てるかどうかで花開くものだ。
そういう状態で行動できることを私は「無垢」と考えたい。
無垢のままでいる時間をできるだけ長引かせ、自主性や自尊感情、
好奇心を十分に育める環境におくこと。
これが「子どもは無垢な存在」という言葉に込められたもうひとつの思いだと
私は思っている。
『本当は怖い小学一年生』P48
ーーーーーーーーーー