小学2年生の★くん。
知力は高いけれど、シングルフォーカスに陥ったり、注意散漫になったりする、
「できる時」と「できない時」の開きが大きい子です。
理解力や創造力が高い反面、細部の一点に集中しはじめると、全体が見えなくなったり、頭が切り替えられなくなるという欠点を持っています。
勉強以外の遊びや生活の場面でも、何かをしている途中で、ひとつでも気にかかるものが現れると、最初の目的を忘れがちです。
また、気が乗らない作業をしているときは、注意散漫になって上の空になりがちです。
学校のテスト中も、適当に読み飛ばしてミスを連発することが多々あるようです。
教室では、まず次のような問題を解いてもらいました。
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①よこの 長さが たての 長さの 6ばいよりも 2㎝長い長方形が あります。
たての長さが 4㎝と すると、
この長方形の まわりの 長さは、何㎝になりますか。
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★くんが困っているようだったので、ヒントの代わりに、
★くんの中から答えを引き出すような質問をしてみることにしました。
「★くん、何の話だった?」とたずねると、「長方形」と答えます。
その絵を描いてもらいます。(★くんの答案はえんぴつの線が見ずらかったので、写真は私が同様の図を描きなおしたものです)
次に、「長さが出ているけれど、比べるものはあるの?」とたずねると、
「たてとよこ」と答えると、次のような線分図を描きました。
「★くん、6ばいってどういうこと?」とたずねると、指でたての幅を作って、6回それをつなぐ真似をします。
ここまできて、★くんは、この問題を解いていくだけの力がありそうなことはわかりました。
ただ、困ったことに一度問題に目を通すものの解きはじめた後につまずいても、自分の頭から何かを絞りだそうとするように目を宙に向けて首をかしげるばかりで、決して問題を見直そうとしません。
「比べるならどのようにちがうのか、問題をきちんと見て」と言うと、次のように描くことができました。
(本当は最後につけた2㎝を、途方もなく長くかいていたのですが、それでもだいたいのところは写真のように正しく描けていました)
★くんに、「よこの長さはどれくらいになると思う?」とたずねると、「えっ5センチ?ちがうかな10センチかな?」などと、またも宙を見ながら、首をかしげて答えます。
「★くん、何を見て考えればいいんだった?」とたずねると、
「ああ、そうだった」と自分が描いた線分図を見て、4~8~12……24と2で26㎝!」とちゃんと答えます。
そして、さっさと答え欄に26㎝と書きこんでしまったので、
「何が質問されていたのか間違えないためには、どうすればいいの?」とたずねると、「問題の最後のとこを読む」と言います。
「そう、読んで」
「あっ、まわりの長さだったから、26+26+4+4=60 答え60㎝だ」
と正しい解答を出すことができました。
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★くんタイプの子が問題が解けなくて困っているとき、問題の意味がわかっていないのだと思って、解き方を説明しても、いっこうにできるようにならない場合があります。
知力はあるのに、シングルフォーカスに陥りがちだったり、注意散漫だったりして解けなくなる子には、
何を考えていたのかわからなくなって混乱した時に、自分に投げかけるといいシンプルな質問を教えておいてあげると、ボーっとなりそうになると、
心の中で自分で自分に質問を投げかけて、夢から覚めたように続きを解いていくことができるようになる場合があります。
また、どのようなところに注目したらいいか、目の使い方も教えます。
こうした子は「問題の意味がわからない」のではなくて、よそ見をして解いているときに、どのタイミングで問題を読み返したらいいのかコツがつかめないのです。
また、うろ覚えの内容について読み返すことの大切さがわかっていないのです。
どちらも身体の使い方の問題です。
「うろ覚えでも見直さなくてもいいや。間違えてもいいや」と適当に構えている子に懇切丁寧に解き方を説明していると、
「どうせ言ってもらえるからいいや」とますます依存的になって、他人事のように勉強をするようになりがちです。
こうしたタイプの子は、とても頭が良い子でも、算数の問題を解いている最中に、自分が何をしているのだったか忘れていることがあります。
何か、心を奪われた一点で頭が占められて、ぼんやりしたまま元の状態に戻れないのです。
たとえば、問題にザーッと目を通した瞬間、難しそうな言葉があったりすると、そこに気を取られて、次に何をしたらよいのかわからなくなってしまうのです。
おそらく、前回まで(算数の文章題を考えるためのワザ4)の記事で紹介した「筋肉豆腐」の問題も、
「タンパク質なんて難しそうな言葉にぶつかって、そのまま白昼夢の世界へ飛んでいってしまった子もけっこういたのでは?」と想像しています。
そこで、子どもには、問題を読むとき、「何の話だったのか?」という急所をシンプルな一言で表すように教えています。
「おりがみの話」「長方形の話」「列で並んでいる話」などいろいろあるはずです。
それを絵にしてみます。
子どもがひとりで問題を読むときも、何を読んでいるのかを忘れてしまわないために「何が出てくる?」という最初の問いを心に持って、問題を読んでいくようにして、絵を描いてみると、
解きはじめでつまずきは減ってきます。