「結局、どんな問い方が子どもの思考力を育てるの?内言を発達させるの?」と疑問を抱えたままの方がいらっしゃるかもしれませんね。
私が思うのには、子どもの感情が揺さぶられるような問い方、それまであたり前だと思っていたことの思いもかけない側面を発見した時、つまり「びっくりした」時にちょうどいい問いを投げかけることだと思っています。
問いといっても、必ずしも言葉で問いかけるのではなく、無言の手助けがそのまま子どもへの問いである場合もあります。
あえて問わないことが、問いになることもあるでしょうね。
感情が揺さぶられるとき、人は本気で考えるものです。
つまり、揉め事のあるところには、思いっきり知恵を絞る絶好のチャンスがあるということです。
問題を解決するために頭を使うのは、国の場合も、危機に面した時ですよね。
子どもたちにしても、自分や友だちが揉めていたり、何だか心が納得しなくてジレンマに陥ったりするときこそ、みんなを巻き込んで考えることを楽しむチャンスでもあるのです。
工夫して解決したときには、本当にうれしいし、解決しないときには、心に残るストーリーが記憶に刻まれますから。
今回の工作のワークショップには3歳の内弁慶の女の子☆ちゃんが参加していました。
☆ちゃんは神経が過敏で繊細で恥ずかしがり屋さん。
反抗期の真っ最中ということもあって、お友だちと仲良くしたいけれど、近づき過ぎるのは怖いし、みんなといろいろしたいけど、自分の物を触られるのは嫌だし、大好きなお友だちは自分の思うように手をつないでくれないしで、気持ちが高ぶって、廊下の暗闇に隠れてしまいました。
誰にも貸したくないとばかりに、ねんどで作ったお料理と、チーズの箱で作った椅子を抱えています。
そこで、わたしは☆ちゃんに、「ここに☆ちゃんのお部屋を作ってあげようか?」とたずねました。すると、☆ちゃんは目をキラキラさせてほほえんで、こっくりしました。
段ボールを貸してくださる方がいたので、それを立てて壁やドアにすると素敵なお部屋ができました。
すると、うらやましそうに他の子らがぞろぞろ集まってきました。
お友だちが口ぐちに「お家に入れてよ」と懇願しますが、☆ちゃんは「いやー!だめー!」と断固拒否。
ちょっとお姉ちゃんの◇ちゃんが「ケチはだめ」とばかりにたしなめて、軽く☆ちゃんのおでこをペチリとたたきましたが、☆ちゃんは誰も家に入れようとしません。
どうしても家に入りたかった●ちゃんが、ワンワン大きな声で泣き始め、「●ちゃんにもお家を作ってあげよう、ここではどう?これはだめ?」となだめすかしても泣きやみません。
●ちゃんは、●ちゃんで、自分の家が欲しいのではなくて、「意地でも誰も入れないぞ」とがんばっている☆ちゃんの感情がその場にかけている不思議な魔法が魅力なのです。
本当に、どうして手に入らないものはこんなに魅力的なんでしょうね?
この後で、激しい「お家に入れて!」「いや!」の争いは、素敵なドラマを生みました。
というのも、実はそれまで☆ちゃんは、●ちゃんが好きで、仲良くなりたくて、手をつないでもらいたくてしかたがなかったのです。
でも、追いかけ回されて、友だちになって~と迫られると逃げたくなるもので、●ちゃんはずっと☆ちゃんを拒否していました。
それが、突然、ものすごく魅力的な豪華?(段ボールの壁の……↑の写真のスペースです)な家の持ち主となった☆ちゃんの株は、この揉め事で一気に急上昇し、●ちゃんの大泣きの末、☆ちゃんと●ちゃんは仲良さそうに手をつないでずっと遊んでいたのです。
子どもの思考力を育む問い方、やっぱりよくわからなかったという方がいらっしゃるかもしれません。
確かに、「問いといっても必ずしも言葉で問いかけるのではなく、無言の手助けがそのまま子どもへの問いである場合もあります」というあたり、何が言いたいのやら……と。
上記で☆ちゃんがその場にいる緊張から暗い廊下に身をひそめてしまった話をしましたよね。
そうした時のサポートの仕方というか、大人の心のあり様のようなものが、自分で考える子になるか、自分で考えようとせずに、すぐに他人に頼ったり、すぐにあきらめたり、すぐにキレたり、大人の指示に従いすぎたりする子になるかを分ける分岐点となるように感じています。
どういうことかというと、人が頭を使うのは、必要があるときで、必要があるときというのは、解決したい問題を抱えているときですよね。
動物を箱に閉じ込めたら、一生懸命知恵を絞って出ようとしますよね。でも、のんびり餌を食べているときに、いくら「頭を使え」と命令したところで、考えようとはしないでしょう。
子どもにしても同じで、子どもは自分で「あれが欲しい」とか、「お友だちと遊びたい」とか、「あんなことができるようになりたい」といった欲望を感じて、すぐにかなえられないとジレンマに陥ります。
葛藤を抱えて、泣いたり、わめいたり、自分の殻に閉じこもったりします。
そのひとつひとつの欲望は、ある意味、子どもにとって非常に大事な成長の起爆剤です。
子どもが自分で作りだす自分の発達をうながすための創造物であり、道具といえるのです。
ですから、大人が葛藤が起こらないように、揉め事がないように先に手をまわしてしまうとか、葛藤が起こるやいなや、解決法を提示して大人が解決してしまうということは、ママ友の関係維持にはいいことかもしれませんが、その分、子どもの成長を遅らせてしまうのではないでしょうか。
といっても、子どもたちが揉めるがままに放っておいたのでは、暴力に訴えるようになったり、友だちと遊ぶのを怖がるようになったりしかねません。
それなら、どのようにサポートすればいいのでしょう?
子どもが葛藤を抱えているとき、大人は子どもが自分たちで解決していく力を尊重しつつ、次のようなサポートができます。
◆ 危険のない形で、感情を十分表現させる。子どもの気持ちを受け止める。
◆ 新しい別の視点から今起こっている出来事を眺めるヒントを与える。
◆ 創造的な解決法をしめす。
◆ 子どもが葛藤に陥っている本当の理由を見抜いて、心から満足できる体験が味わえるようにする。
◆ 子どもが葛藤の末、手にいれようとしている新しい理想的な自分像に気づいておく。
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葛藤があるところには、たいてい成長の可能性があります。
暗い廊下に隠れてしまった☆ちゃんの行動も、☆ちゃんが今の状態よりもより成長した自分になりたいという向上心が潜んでいます。
これまではお友だちといっしょの場所でも☆ちゃんはママとふたりで仲良く遊んでいれば満足だったのです。
でも、そうじゃなくなった。
それだけじゃ、イライラする。ママじゃなくて、お友だちと仲良くなりたいって欲望が目覚めてきたのです。
でも、どう振舞ったらいいかわからないし、何だか怖い。拒否されそうだし、実際、強く拒否されもするから、先に自分が乱暴に振舞っておく。
でも、それでは少しもお友だちと仲良くなれない。
そんな悪循環から抜け出すすべもなくて、暗い場所に隠れてしまったのでしょう。
そうした時に、近くにいた大人が☆ちゃんと同じ視点で、今起こっている揉め事を鎮めることばかりに気持ちを集中させて、「~言いなさい」とか、「仲良くしなさい」とか、「優しくしなさい」と指示して、納めてしまったのでは、その出来事が成長には結びつかないかもしれません。
今回の工作の集まりは「虹色サークル」という虹色教室通信の読者の方々が作っているサークルなので、こうした子どもの揉め事にも、親御さんたちは余裕を持って、見守っておられました。
それで、
◆ 危険のない形で、感情を十分表現させる。子どもの気持ちを受け止める。
◆ 新しい別の視点から今起こっている出来事を眺めるヒントを与える。
◆ 創造的な解決法をしめす。
という3つは、自然と親御さんたちの間から、子どもを主にした形のアイデアが出て、「問題が起こった時やイライラを抱えてしまった時、知恵を絞って、工夫すると、こんな楽しい結果が得られるんだ」と子どもが気づけるようなサポートをしておられました。
たとえば、☆ちゃんのお家に入れてもらえなくて悔しがっていた子には、戸の隙間を利用して、忍者の密文をやりとりする新しい遊びを提案していました。
ただ、
◆ 子どもが葛藤に陥っている本当の理由を見抜いて、心から満足できる体験が味わえるようにする。
◆ 子どもが葛藤の末、手にいれようとしている新しい理想的な自分像に気づいておく。
という2つについては、
「やれやれ、揉めてたのがおさまったわ~」とホッとした時点で、次につなげる視点は持っておられないようでした。
そこで、工作後の大人だけの勉強会では、雑談を交えて、子どもを成長させる環境やサポートについて親御さんたちと話しこむことになりました。
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本を出させていただきました♪