虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

「自閉っ子のこだわり」を「能動的に取り組む活動」へと橋渡しする中間の活動

2021-07-28 20:18:06 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

発達障害のある子のお友達との関係をサポート1

発達障害のある子のお友達との関係をサポート2

発達障害のある子のお友達との関係をサポート3

の記事にさせていただいた発達障害の診断を受けている3歳6ヶ月の★くんと

未診断ながら発達上の凹凸が目立つ☆くんの1ヶ月ぶりのレッスンの様子です。

 

☆くんは、劇の幕が上がっていくところに夢中なのだそうです。

そこで紙を丸めて作った筒に布を貼りつけて、くるくる上がる幕を作ってあげました。

☆くんはハムスターの人形や持ってきたおやつを舞台に並べて、大喜びしていました。

 

★くんは周囲の状況に合わせて動くのが苦手です。

誘いかけても、じっと座ったまま、しつこいほど同じ遊びを繰り返していることが多いです。

今回は、前回同様、ひたすらバスのドアの開閉にこだわっていました。

 

★くんがひとつの遊び方に固執して、他の活動にいっさい参加しようとしないのには、見通しの立ちにくさと身体感覚の鈍さが理由にあるようでした。

というのも、そのふたつに配慮して誘った遊びには積極的に参加し、2回目以降には誘えばすんなり従う姿がありましたから。

お母さんのお話では、集団の活動の場で、みんなで踊ったり体操したりする時間に、ひとりだけおもちゃを触りたがっていっしょに参加しようとしない、ということでした。

ただ気に入ったおもちゃさえあれば、そこに通うのを嫌がることはないそうです。

 

★くんには、 

遊びが広がらない自閉症の子との遊びを発展させていく方法 4

で書いたような

ーーーーーーーーーーーーーーー

その子がこだわる活動、つまり

見たり聞いたり感覚を楽しんだりしたがる活動と

 自分で働きかけたり作ったりする活動との橋渡しになるような

それらの中間に位置するような活動

ーーーーーーーーーーーーーーー

 がとても重要だと思われました。

 

★くんはせっかく同年代の子が集う場に連れて行っても、ある特定のおもちゃのひとつの遊び方に執拗にこだわるところがあるようです。

だとすると、他の子たちと場を共有してはいても、いっこうに遊びが発展していかない可能性があるのです。

虹色教室でも、自由に遊ばせて様子を見ていると、延々とバスのドアの開閉だけを繰り返し続けて、しゃべる内容も、「ドアが開かない」「ドアがちゃんと閉まらない」とだけ、それこそ何十回でも言い続けています。

 

 

★くんは事物の細部にだけ集中し続ける興味の狭さを持っています。

そのため、★くんの日常生活をサポートするために、お母さんが準備したイラスト付きの手順書のようなものにさえ、細部に注目しすぎてしまい、逆効果になることもあるそうです。

たとえば、ズボンを自分ではこうとしないため、ズボンをはく手順をイラストで示すと、「(手順書と違うから)そのズボンと同じタイプのものでないとはかない」という新たなこだわりが生じてとても苦労するのだとか。

それほど細部に集中して、こだわりを強めてしまう★くんに対して、「何か興味ありそうなものを……」と誘いかけても、固い無表情のまま無視されてしまいます。

 

そこで、わたしは★くんがこだわっているバスのドアの開閉を他の活動につなぐことはできないかいろいろと試してみました。

紙箱で開閉するドアを作る工作の見本を作ったり、ブロックで開閉するドアを作ってみたり、警察署のドールハウスの引き戸を開閉してみせたりしました。

が、そのどれにも★くんは興味を示しませんでした。

が、そうやっていろいろ働きかけるうちに、★くんは開閉すること自体よりも、バスの扉の機械のような動きに魅力を感じているのがわかってきました。

押すと鳴るブザーとか、カメラのシャッターを押す動作などに、★くんは惹きつけられるところがあるのです。

★くんが夢中になっていたバスの開閉するドアも、レバーをひねると、バスのドア部分がアコーディオンカーテンのように折りたたまれてカチャッとはまる動きが機械を思わせるのです。

それでは……と工作道具に100円ショップの電動歯ブラシを加えて、何か作るたびに、工作物の床をそれで振動させて不思議な動きを作りだすと、キラキラと目を輝かせて席に着きました。

 

どうしてこんな電動ハブラシが教室にあるのかというと、科学クラブの子たちが分解して何か別のおもちゃに改造するための電池で動く機械の100円グッズをあれこれ買いだめしているからなのですが……

この手の安価な電動グッズ類が自閉っ子たちのツボにはまることってよくあるのです。

たとえば、くるくるハンドルを回したりカチカチ握ったりして蓄電してライトを灯す機械とか、光ファイバーのライトとか、押すと音がでるグッズとか、砂時計に似た不思議な液体や粒子が上下に移動するグッズなどです。

今回の電動歯ブラシは、写真のように空き箱に押し当ててスイッチを入れると、箱の上に乗せた船はまるで海を渡っているように走りますし、毛糸の玉はもぐらや毛虫のような動きをします。↓

 

↓★くんと☆くんに、持ってきたおやつの空き袋で舟を作ってあげると大喜びでした。

自分の食べたお菓子、それも前回と同じようにピクニックごっこをして、山のぼり(椅子のことです)もして、包みを開いて食べたお菓子の袋で作ったもの、ということで、とても気に入っているようでした。

舟が箱の上を動いていく様子を見た★くんは、電動歯ブラシを手にして、自分も舟を動かしてみたり、それをおもちゃのバスやセロテープの台やテーブルに押し当ててみて、振動が変化する様子を楽しんでいました。

 

↓☆くんはモールを使って、虫を作ることにしました。

 

↓★くんは毛糸を切って、妙な生き物を作るのに熱心でした。

なかなかうまくはさみが使えず苦労していましたが、「こうするの?こうするの?」とたずねながら、根気よく切っていました。

 

ふたりがいろいろ試してみながら熱心に遊ぶ様子を見て、次の機会には、他の電動の機械類を使った遊びをいくつか提案してみようと思いました。

手を打つと音に反応するロボットや、障害物を避けて進んでいくロボットなどで遊ばせてあげると、身体を使う遊びや積み木やブロックで障害物を作る遊びにつながるかもしれない、と思いました。

(ちょうどそれらの電子工作で作るロボット類の科学クラブ用に準備していたものです)

続きを読んでくださる方はこちらです。

「自閉っ子のこだわり」を「能動的に取り組む活動」へと橋渡しする中間の活動4

「自閉っ子のこだわり」を「能動的に取り組む活動」へと橋渡しする中間の活動5


自由研究 親はどう関わったらいいの?

2021-07-26 19:30:00 | 教育論 読者の方からのQ&A

個性に合わせた自由研究のテーマ選びの続きです。

コメント欄で次のようなご質問をいただきました。

ーーーーー

先生のお子さんたちが小学生の頃、いろいろなコンクールに出品してたくさんの賞を頂いていた、という過去記事を思い出しての質問なのですが……

先日、朝の情報番組で夏休みの自由研究についての特集を外出前にちらり、と見たのですが、その中に小4の女の子の研究で「なめこのお味噌汁はどうして冷めにくいのか」というものがありました。

女の子は小さく切ったにんじんを使って熱湯のなかでのにんじんの動きから、なめこのぬるぬるがお湯の対流をおこさせにくくするために、熱が逃げにくいという結論を導き出していました。

確かにあんかけのものとかって、なかなか冷めにくいですもんね。でもそこで対流が起こっていたとは、恥ずかしながら知りませんでした。

こういう研究って、親が結論を知っていてその結論を出せるように導いているんでしょうか?

にんじんを細かく切って……などという方法は、対流が起こっているからという原因さえ思いつかなかった私には子供に提案してあげることすら、できません。

なんだかやっぱり親の力不足は大きいなぁとがっくりしてしまいましたが、先生の場合はどの程度まで親が準備し、子供に考えさせていらっしゃたのでしょうか?
よろしければ教えてください。

ーーーーー

すでに答えが本なりネット内なりにあって、大人の誘導によって答えの方向に導く
といった形で研究したものは、
自由研究で賞をいただくことはまずないのではないか……と思います。

子どもの疑問からスタートして、その疑問がこれまでおそらく誰も調べたことがないもので、調べたり実験したりして試行錯誤を繰り返す中で、こうではないか?という答えに近づいていったものが主流だと思います。

私が娘や息子と自由研究をする場合、

日常生活のなかで子どもが疑問を感じたり、やってみたいと思ったことで、私自身、結果を知らないものをテーマにしました。
(わかっていることは、誘導になって、研究の面白さがないからです)

調べる過程やまとめ方が子どもの個性と能力に合っていて、
80パーセント以上子どもがひとりでできることにしました。

親が手助けするのは、内容ではなく、
図書館に連れて行く、司書の方に専門書の場所を聞く手助けをする、
実験材料を購入する手伝いをする、
まとめて整理するとき、バランスよく最後までやり遂げられるようにアドバイスをする

にとどめました。

「魚の釣り方を教える」というのが、自由研究をする上で大事なことなので、
親が手を出した結果、賞をいただいて、子どもに「魚」だけ与える
という形にしては元も子もないと思っています。

以前、親子でチャレンジする 図書館を使った 調べる 学習賞コンクールというものに小4の息子といっしょに応募して、『ゲームと数の?な関係』というレポートで、公共図書館部門で優秀賞をいただいたとき、次のような講評をいただきました。

ーーーーー
この部は、ときどき親の方が夢中になって子どもの姿が見えなくなることがあるが、
『ゲームと数の?な関係』は、子どもの疑問に対する追及の姿勢、
親のほどほどのかかわり方、
明るくて楽しい家族が見えてくるようなレポートであった。
いかにも子どもの疑問という点では『ふしぎはっけん』の素直な疑問と、
それに対して親がていねいに調べ、きちんと答えていることに
高い評価があった。
しかしその一方で、夏休みの毎日、こんなに疑問を出されてはたまらない、子どもは調べることに参加でしているのか、という疑問もでた。
今年も著作権のことが問題になった。資料を切り抜いたり、コピーをし、貼り付けるという作品もあった。ただ集め、資料を並べただけでは 調べ学習 にはならないし、著作権は人格権でもあることも念頭において欲しい。
                           (小川俊彦)
ーーーーー

完璧さよりも、子どもが自分の疑問とどのように向き合い、研究から何を得るか……ということを大事にしてチャレンジしたことが評価されてうれしかったです。
自由研究コンクールは、たとえ賞をいただき、高価な賞品を手にしても、
それが子どもの真の学びにつながらなければ、あまり意味がないと思います。
夏休みのムダ使いになってしまいます。

私が、さまざまな子と接していると、
それぞれの子の個性に適した自由研究というものがあるのがわかります。

直感タイプでひらめきが多い子や思考タイプで深く思考していくことを好む子なら、
小さく切ったにんじんを使って熱湯のなかでのにんじんの動きから、
なめこのぬるぬるがお湯の対流をおこさせにくくするために熱が逃げにくいということに、さまざまな水と物の動きの関係を調べるうちに、気づいてひらめくかもしれません。

ですからそうした疑問を追及するタイプの自由研究が合っているでしょう。

でも感覚タイプの子の場合、
疑問の答えを追いかけるのではなく、
コレクションするように大量の魚のうろこを顕微鏡で調べて
絵にしていくといったものが合っているでしょう。
美しさへの感性や飽くことないこだわりに似た熱心さを生かすのです。

感情タイプの子の場合、生き物との交流を中心に
その生態の面白さを研究していったりするのが良いかもしれません。
特別な答えを求めていくのでなく、面白さへの敏感さを、表現していくのです。

★性格タイプについてはこちら→ 子どもの性格タイプについてまとめました


うちの場合、娘が賞を得たのは、商品開発などで大人も対象とした現代のニーズを読んでアイデアを表現していくことが主です。

性格も能力もちがうので、息子と同じような自由研究という考えはまったくありませんでした。

 

<関連記事>

調べ学習にチャレンジ♪と「会話」の話

うちの子の自由研究の思い出です


個性に合わせた自由研究のテーマ選び

2021-07-21 22:39:16 | 子どもの個性と学習タイプ

5年生の☆くんの夏休みの自由研究のお手伝いをしています。
といっても、テーマ選びと全体のまとめ方をアドバイスする程度ですが…。

この「テーマ選びと全体のまとめ方」って
ものすごく大事なポイントだと思っています。

ただ、自由研究の本に載っているものを真似してするだけでは、ただダラダラと作業をするのを叱って終わることになりがちです。

せっかくの夏休みですから、テーマはその子の本質に迫ったものでありたいですね。

幼児期から子どもと学び遊びを共有していると、すぐに取り組みたいテーマが浮ぶし、子どもの方から「次はこんなテーマを研究してみたい!」と声が上がると思います。

それでも、だいたいの子は、ぐずぐず~とテーマを決めるのに悩みます。
そこで親御さんがいっしょにテーマとまとめ方を考えてあげる場合、私がしているいくつかポイントを紹介します。

まとめ方は、その子が普段、遊びなら喜んでする活動を中心にしています。

☆くんは工作好きで、大胆に切ったり貼ったりする作業が好きなので、色画用紙を台紙にして、そうした作品を貼って、タイトルと説明、調べたことを書き込むまとめ方をすすめました。
白いレポート用紙やノートを前にすると、頭が真っ白になってしまう子なんです。

絵が苦手な子には、カメラを渡します。

テーマは、その子の興味や関心を大人の視点から捉えなおしたものがいいように思います。

ビー玉を転がすのが好きな子なら「運動の動きや向き」「傾斜を転がるビー玉の動きについて」

昆虫が好きな子なら「虫の記憶力についての実験」「アリの通り道を遮断するとどうなるか?」

など、本人の普段の遊びを研究と言えるものに近づけてあげるテーマを設定して、参考になる本を用意してあげます。

もしビー玉を転がすのが好きな子に、「朝顔の観察」をテーマにさせたりすると、すごくいいかげんな研究になってしまいますよね。
でも好きなことをテーマにすると、少し難しいテーマでも調べているうちにのめり込んで行きます。

今回、私が、☆くんに選んだテーマも大成功!!でした。
☆くん、ものすごく熱中して取り組んでくれました。

☆くんの自由研究は「動く仕組みの研究」です。
滑車やギアの模型を紙で作りながら、そのしくみや活用法をまとめていきます。

以前、デュプロブロックで動くおもちゃをたくさん作ってくれた☆くんならでは…自分でも回転する仕組みや、見えたり見えなくなったりする仕組みなど、考えだしてくれました。

 

<関連記事>

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こぐまくんの知育日記♦︎虹色教室mini♦︎更新しました♪

2021-07-17 16:40:51 | 0~2歳児のレッスン ベビーの発達

こぐまくんの知育日記♦︎虹色教室mini♦︎更新しました。

1歳2ヶ月の子と楽しむデュプロブロックの遊び 1

赤ちゃんと楽しむマスキングテープを使った遊び 1

段ボールでドクターイエローを作りました♪

よかったらのぞいてみてくださいね。

 

 


ちょっと気になる知的好奇心の薄さ

2021-07-13 19:44:00 | 教育論 読者の方からのQ&A

ちょっと気になる知的好奇心の薄さ 1 の続きです。

 

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「発達や知力に問題なく、社会性の発達も順調で言葉も達者で何でもやりたがるし、

年相応にできるけれど、知的な好奇心が薄いという子」の親御さんの

声をかける頻度、言葉かけの内容、関わり方、解説の仕方、誘導の仕方、諭し方、

可愛がり方、叱り方、注意の仕方、期待のかけ方などが、

非常に似ているということを書きました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

子どもの知的な好奇心を阻害する、大人の接し方があると感じています。

 

最も問題に思えるのは、「指示の多さ」です。

 

幼いわが子を前にすると、まるで自分と子どもがつながっていて、

何を見るのか、何を聞くのか、何をするのかを考えるのは親の自分で、

そうした大人の指令に指示通り従うのが子どもであるかのように振舞う方がいるのです。

 

あまりに無意識にそうしてしまうからか、

何度も何度も過剰に指示を出している点を指摘しても

「あっそうですね」「わたしの接し方がいけませんよね」と即座に反省の言葉を

口にされるにも関わらず、

1分後には、子どもに自分で考えたり判断したりする隙を与えないほど

指示をたくさん出してしまわれます。

 

そうした接し方をされている子は、

こちらが何かに誘うと、素直に誘いに乗るし、活動そのものをする力はあっても、

次のような行動につながらないことが多いです。

 

「次にどうなるのかな?」「どうしてかな?」と疑問を抱いたり、

やってみた結果を見て、「こうするとこうなるんだな」と規則や秩序を発見したり、

うまくいかなかった場合、ほかの方法を試そうとしたりすることです。

 

実験遊びなどをしている時も

派手な変化の瞬間だけ喜んだかと思うと

「じゃあ、こうしたらどうなるの?」「あれもやってみたい!」「これも!」と

ほかの子らが、その実験をきっかけに、「もっとそれについて探究したい」という

盛り上がりを見せたとたん、

「これで終わりでいい?もう実験終わりでもいい?遊んできてもいい?」

と、たずねるのです。

 

そうした子どもの行動する様子を観察していると、

自分の好きなおもちゃで遊んでいる時以外は、心や頭を使って物を見ていないし、

聞いてもいないし、感じ取ってもいないのがわかるのです。

赤ちゃん時代から、「自分で見て、聞いて、感じて、考えて、判断して、想像して、推理する」という活動を、

ことごとく身近な大人から邪魔されながら育ってきたように思われるのです。

 

といっても、保育園や幼稚園や小学校が、子ども自身が自分で見て、聞いて、感じて、

考えて、判断して、想像して、推理することを許さないようなシステムになりつつ

ある昨今では、これは一部の親御さんと子どもの問題ではなくなりつつあります。

 

保育園や幼稚園や小学校がそうしたシステムで運営されているために、

親御さんたちが、そうした過干渉や過保護(子どもが求める前から物を与えたり、

代わりにやってあげたりするなど)や

過剰な指示や一方通行の大人と子どもの関係をあたり前のように

思ってやってしまう、という悪循環も起こっているように見えます。

 

次は、もう少し具体的にどのような「指示の多さ」が問題なのか書いてみたいと思っています。

続きはこちらです。→ ちょっと気になる知的好奇心の薄さ 3


ネガティブな体験が子どもの力になる時 3

2021-07-09 10:23:17 | 子どもの成長

話は変わって、別の日の出来事。

ユースホステルに泊まった日、ちょっとした事件が起きました。

 

小学3年生のEくんが朝から「パジャマがない」と騒いでいました。

Eくんのお母さんがベッドの脇やカバンの中を手際よく調べて回りながら、

「ちゃんと探しなさい」と注意し、

「カバンの中も戸棚もみんな調べたんだよ」とEくんは困り切った様子で

いささかあきらめ気味に周囲をかき回していました。

どうせもう見たから、もう一度見たってないのに……と思いながら、

うるさく言われるから探しているポーズを取っているという感じです。

 

人気者のEくんのこと。他の部屋の子らもぞろぞろ集まってきました。

Eくんがすっかり意気消沈していたので、他の子らの協力を仰ぐことにしました。

「事件!事件!警察や探偵になりたい子は集まって!

隊長も呼んできて!」と声をかけると、ちょうどその時、

一番年長で他の子から隊長と呼ばれているGくんが、

どんな楽しいことが起こるのかとワクワクした表情で部屋に入ってきました。

「えっ!事件?警察の仕事?了解です。ハッ、イエッサ!」と

敬礼のポーズを取りました。

「落ち着いて、パジャマがなくなった時のことをよく思い出してみて。

そういえば、お風呂のところに忘れ物置き場があって、

衣服やタオルが置いてあったわよ。」というと、

Eくんが、「朝まで来ていたパジャマなんだ。

だからお風呂のわけないよ」と言いました。

確かにお風呂に入ったのは昨晩ですから、今朝まで着ていたパジャマを

そんなところに忘れるわけがありません。

そのやり取りを聞いていた隊長は、「うーん」と考えてから、

「さぁ、まず、みんなでお風呂の忘れ物置き場に行ってみよう」と言いました。

「ちがうってば。あるわけないよ。だって、さっきまで着ていたんだから」

「でも、まず行ってみよ!」と隊長。

とにかくあるかどうかより、警察っぽく、

上階の風呂場に調査に出かけたい様子です。

「まって、隊長。

もう一度、パジャマが消えた時のことをよく思い出して調べてみよう。

この部屋にいた他の子は誰?

その子が間違って、自分のリュックにEくんのパジャマを入れてしまったかもしれないよ。

それから、シーツはもうシーツ置き場に出しに行ったの?

もしかしてシーツにパジャマをくるみこんで、

出してしまったかもしれない」というと、

警察や探偵になった子たちはめぼしいものを調べはじめました。

Eくんが出したという使ったシーツの置き場に行ってみると、

大量のシーツの山ができていました。

「さあ、片っ端から調べなくちゃ」と子供たちが

今にもシーツの山に飛びつきそうだったので、

「よく推理してよ。Eくんがシーツを出した時、

どのくらいまでシーツが入っていたの?」とたずねると、Eくんは、「ここ!」と

自分の胸くらいの位置を指さしました。

そこで、隊長を中心に怪しいシーツを開いてみると、

Eくんのパジャマがシーツにぐるぐる巻きにされて

いました。

「やった-!事件解決!」と子どもたちは大喜びでした。

 

物をなくすというネガティブな体験も、関わり方によっては

思い出に残る楽しい出来事に変わるものです。

うれしそうにはしゃぐ男の子たちの声を聞いて、

女の子たちが集まった時にはすでに事件が解決していていました。

ちょっとつまらない女の子たち。

「あっちが警察なら、わたしたちは大泥棒になろう」ということに

なりました。

紫外線を当てると光る「秘密ペン」を使って

大泥棒の秘密組織の仲間かどうかを確認できるようにしました。

 

部屋に宝を隠して寝たふりをする男の子たち。

女の子がなかなか宝を見つけられないと、寝言のふりをして

ヒントをくれていました。

 


ネガティブな体験が子どもの力になる時 2

2021-07-07 11:17:37 | 子どもの成長

周囲を困らせたり心配させたりする行動が増える理由は、

子供がそれまでとは異なるより高度なレベルの課題に取り組みだした

ことにある場合はよくあります。

新しくて難しい課題に取り組んでいると、思うようにいかないことばかりで、

すぐにいっぱいいっぱいになってしまいます。

Aちゃんの例でいうと、こんな感じです。

体でこなしていたことは、やろうと思ったことをやり遂げたらすんだけれど、

説得したい、思ったことを言いたいという気持ちは、

相手が取り合ってくれなければ、不完全燃焼を起こすのです。

といっても、幼い子扱いされて、

「これしてみる?」「こうしてあげようか?」とご機嫌を取られるだけだと、

余計にイライラします。

 

そんな時は、ちょうど等身大の活動が大切です。

「Aちゃん、先生の部屋に行って、次にみんなでしたらいいと

思うものを見つけてよ。Aちゃんが考えてくれる?」とお願いすると、

口をとがらせていたAちゃんの目が急にきらきら輝きだすのを感じました。

真剣な顔でこっくりします。

Bちゃんに声をかけると、「いっしょに行く」と部屋の靴置き場まで出てきました。

サンダルを履くBちゃん。すると、BちゃんのサンダルとAちゃんの

サンダルは色ちがいではあるけれど、形が似ていることに気づきました。

「いっしょだね。サンダルだね」そう言いながら、お互いの足先を差し出して、

サンダルを見比べるうちに、ふたりの表情はみるみる明るくなりました。

すっかり有頂天になったふたりは、世界中にあるどんなものでも

自分たちで発見できるような勢いです。

すると、小学生のCちゃんが、

「わたしもいっしょに道具を見に行く」と言いました。

「Cちゃんもいっしょにきてもいい?」とたずねると、

ふたりは「どうしようか?」と相談しあうように見つめあって、

ちょっと考えてから、「いいよ」と言いました。

大きなお姉ちゃんが自分たちの後ろをついてくるのがうれしい様子です。

わたしの部屋について、工作道具とゲームを選んだあとで、

Aちゃんはベッドのところで、ごろりと転がってみせました。

Bちゃんも真似してやってみました。

今度はサンダルを脱いで、畳のところにあがって、

一通り部屋を観察してまわりました。

Bちゃんも同様にし、心から楽しそうに笑いました。

Cちゃんは、やれやれという顔をしながらも、

小さい二人がちょっとした冒険をし終えるのを待っていて、

荷物を手に抱えて、「まだ持てるから、もっと手伝えるよ」と言いました。

 

ゆっくりと自分たちのペースで動いてみた後で、AちゃんもBちゃんも、

自分たちの考えを口にし始めました。

「もし、ベッドで寝ている時にごろごろってして、

木のところを飛び越えてしまったら、落ちるんじゃない?」

「このスリッパは、誰かがはいてきて、

置いていったんじゃない?だから、その人ははだしなんじゃない?」

「靴下かもしれないよ」

「この電気とこの電気はいっしょだね。この電気も。でもこれは違うよ。

懐中電灯だから」

そうやって、見たことを言葉にしてみて、フィードバックを得ながら、

論理的に考えたり、イメージを膨らませたり、疑問を抱いたり、

推測したりすることを集中的に試して、

学んでいく時期のようでした。

 

子供たちと過ごす時、わたしは 『多元的知能の世界』という著書に書かれている

「経験の結晶化」と呼ばれる現象が、起こりやすいように気をつけています。

「経験の結晶化」とは、

子どもがある領域に固執し、高い水準スキルを短期間に身につける状態

のことです。

それは、AちゃんとBちゃんが経験したような

日常の隙間にあるささやかな体験から

始まることが多いです。

日常の結晶化は、子供が新しい高いレベルの活動に着手する時

よく起こりますから、子供が困った行動を繰り返すように

見える時期に起こりやすいです。

 

<経験の結晶化について>の過去記事です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『多元的知能の世界』によると、
知能は発達の時期によって異なってあらわれるので、

評価と育成は、幼児期と学校に通う年になった子では
まったく違う方法をとらなくてはならないそうです。

幼児期というのは、
自分の興味や能力に関する何かを発見することができる時期
なのだそうです。

才能に恵まれた子の場合、
その発見は自然な「経験の結晶化」を通して
自分の力でなされるそうです。

経験の結晶化?

聞いたことがない言葉ですよね。

ある領域における何かおもしろいことに
子どもが強い感情的反応をしるす場合

それは、その子がその領域に相性のよさを感じている…
ことをあらわしているそうです。
特に音楽と数学の領域では、こうした「経験の結晶化」が起こりやすいそうです。

大人が、材料、設備、他の人との出会いをうまく仕組んであげると、
「経験の結晶化」が起こって、
子供たちは自分自身に向いているものを見つける
チャンスも増えるようです。

私も虹色教室で、幼児が、
数学的な秩序の美しさや、論理的に考える思考や、
化学変化の面白さ、鉱物のひとつひとつちがう模様や
ブロックや積み木の作り出す世界に
強く感情を揺さぶられる姿をたくさん見ています。
そうした経験は、その子の潜在的な才能を刺激して
その子の内面に
その後の才能へつながる結晶を作るようです。

子どもの才能はさまざまで、MI理論の指摘する
基本的な7つと1つ(言語的知能 論理・数学的知能 空間的知能 音楽的知能 身体・運動的知能 人間関係的知能 内省的知能 博物的知能)
の中でも、周囲から評価されやすいものもあれば、
その能力になかなか気づいてもらえない知能もあります。

特に、人間関係的知能や内省的知能は軽視されやすいな…と感じています。
この2つの知能に関しては、またの機会にくわしく紹介しますね。

話をもどしますが、

子どもの個性に配慮して教育する

ということは「経験の結晶化」が起こるのをうながす意味でも大切です。
結晶化が起こると、子どもはその領域に固執し、高い水準スキルを短期間に身につけるのだそうです。

「経験の結晶化」すてきですね。

どの子にも自分の才能との良い出会いがあることを…
心から願っています。

 

ネガティブな体験が子どもの力になる時 3 に続きます。


ネガティブな体験が子どもの力になる時  1

2021-07-05 12:58:07 | 子どもの成長

 

子供が心底うれしそうにするのは、

大人が至れり尽くせりに用意した素晴らしい体験ではなくて、何かが足りないとか、

ちょっとドキドキする事件に遭遇するとか、

それまでの自分のままじゃどうにもできない壁にぶつかるとかした時に、

知恵を絞るとか、アイデアを出し合うとか、一致団結するとかして、

それを乗り越えた時です。

 

子供は、本物だと思われる体験の中で、

「今という瞬間が、あなたの頭脳に助けを求めています!」

「あなたの身体能力や意志の力に期待しています」

というミッションが与えられることが大好きです。

 

また、これまで避けてきた未知の危険地域に足を踏み入れて、

最初は不快で泣きたい気持ちだった子や、

無性にいらいらして小さな爆発を繰り返していた子が、

自分自身で未知の世界となじむためのささやかな糸口を見つけた瞬間、

未知の危険地域に感じられた場が一気になじみのある好奇心の対象になるというのも、

子供が何よりも好む展開です。

それは、まだとても幼く見える子たちにしても同じです。

 

ユースホステルでのレッスンでこんなことがありました。

小学生の女の子たちがメインのレッスンに、幼いふたりの女の子たちも混じっていました。

ひとりは小学生のお姉ちゃんがいるAちゃん、もうひとりはひとりっ子でちょっぴり怖がり屋のBちゃんです。

ふたりとも最初のうちは、居心地が悪そうに見えました。

年上の子らが工作に熱中したり、お化け屋敷ごっこをしたりして遊ぶ中、

その輪に溶け込めず、むくれたり、自分の殻に閉じこもったりしていました。

Aちゃんのお母さんによると、Aちゃんは活発で意欲的で社交的な子で、

これまで安心して見守ってきたのだけれど、

最近、むくれたり、無気力だったり、

反抗的だったりする姿が目立つので気になっていたそうです。

Bちゃんの場合、ひとりっ子で新しいことが苦手な子なので、

初めての場所、初めて会う人などに、戸惑っているようでした。

 

子供が、環境になじめないでいると、

「親の接し方のせいで子供がこんな態度を取るのか」

「発達上の問題か」

「環境や体験が子どもにあっていないのか」

と即座に悪いイメージと結びつけがちです。

 

でも、わたしはこういう場面で、

即座に、それがどういうものかという評価を下さず、

感情の痛みからくる決めつけをいったん保留にして、

ちょっとネガティブに見える体験に潜む新しい可能性に目を向けるようにしています。

 

たとえば、Aちゃんの場合でしたら、

お家でぐずぐず言うことが多くなった原因が集団での過ごし方の中にないか、

ぐずぐず言いそうな場に親子でいれば、しっかり観察することができます。

また、気づくことがあれば、実際にその現場で、

Aちゃんが今抱えている課題を乗り越えるのを支援することができます。

 

教室でのAちゃんはこれまで発達が早かったこともあって、

自分でテキパキ行動する子でした。

「こうしたことがしたい」と思い、それに根気よく取り組み、

最後までやり遂げる姿がありました。

 

ユースホステルで、不機嫌そうに振舞うAちゃんを見ていると、

Aちゃんがこれまでのように体で覚えたことで行動するのではなく、

頭を使って何かしようとしているのがわかりました。

 

最初に大人が掲げた「ユースホステルの廊下は走ってはいけません」

「〇〇してはいけません」といったルールを覚えていて、

その通りに実行しようとしていると、

目の前をお姉ちゃんとそのお友達たちが、

Aちゃんからするとルール違反をしてさっさと通り過ぎていきます。

「だめなんだよ。こうしなきゃいけないのに……」とつぶやくAちゃんは、

ひとりぼっちで取り残されていました。

自分が正しい場合でも、

数の多い側が涼しい顔でルール違反をしていると、

何だか自分が間違っているように思えるし、

臨機応変に判断する場面はまだよくわからないし、

自分以外の他の人の行動について、どうすればいいのか戸惑ってしまう……

そんな状態で、Aちゃんの心の中には小さな嵐が巻き起こっているようでした。

また、子供たちが集う場で、

Aちゃんが「こうしたい」「ああしよう」と自分の意見やアイデアを出しかけると、

別のもっと面白そうなアイデアに大勢が流れて、

Aちゃんは顔を曇らせて、自分の意見を引っ込める場面も見かけました。

 

ネガティブな体験が子どもの力になる時 2 に続きます。


おうちの中でシャボン玉遊びを楽しむ方法

2021-07-01 16:41:24 | 理科 科学クラブ

子ども達が大好きなシャボン玉遊び。飛んで行ったシャボン玉があちこちで割れたりせずに、室内で楽しむ方法を紹介します。

虹色教室では実験を兼ねて、シャボン玉遊びをすることがよくあります。

その際、こんな工夫をすると、部屋の中でもシャボン玉を楽しむことができます。

 

<飛んでいかないシャボン玉>

プラスチックのコップやプリンなどの空き容器を逆さまにして、シャボン液につけます。

コップの表面に膜が張ったらストローをさしてゆっくり息を吹き込みます。

 

 

これだとシャボン玉の液を吸いこむ心配もありません。

 

<シャボン玉の液を吸いこむことなく、大量のシャボン玉を作って遊べる道具>

きれいな段ボールを適当にカットして、ストローの代わりに使います。

大量の泡が吹き出します。

飛んでいかずに容器の中に落ちていくので室内で遊べます。

 

<勝手に膨らむシャボン玉>

ゼリーなどの空き容器の底に、小さい穴を空けます。

その穴にシャボン液をつけたら、水を溜めた入れ物に容器を逆さにして、ゆっくり沈めます。

空気が押し出されて、自然にシャボン玉が膨らみます。



↓シャボン玉のアイスクリーム屋さんを開いています。

より大きなシャボン玉を作って販売中。

さまざまな色がシャボン玉の表面に見えます。

 

↓長めのリボンタイで幾何学的な形を作って膜の張り方を調べています。

↓立方体。

少しぶかっこうな立方体の枠ですが、膜は面白い形に張っていました。

 

<関連記事>

屋内でできるシャボン玉遊びのアイディアです。科学に親しむアレンジも♪

シャボン玉の実験中、新発見!?

しゃぼん玉をわると小さな雲が浮かぶ実験

水中シャボン玉

シャボン玉で描いた顕微鏡の中の絵

2歳児さんと作る 雨ふらし機 と しゃぼん玉を膨らませる紙コップ

 

 

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