◆くん、☆くん、●くんのそれぞれの困り感と
サポートについての話題の続きです。
☆くんは場の状況が読みづらく、どの場面でも「自分ルール」を押し通しがちです。
今回こんなことがありました。
レッスンの最初に、わたしはその日のルールを説明しました。
「最初の15分間は、自分の好きなおもちゃで遊んでいいです。
その代わり、使ったおもちゃは片付けます。
15分経ったら、みんなで今日することを話しあって決めます。
その時間からは、みんなで同じことをする時間。
他のことがしたいな~と思っても、先生が、こういうことをしますよ~と
決めたことをします。
遊びたいおもちゃがあっても、遊んではいけません」
この3人、最初の15分もそれぞれバラバラに遊ぶのではなく、
魚釣りのゲームをいっしょにしていました。
自分の釣りざおがなかった☆くんは、かんしゃくを起こさずに
「ならこれでもいいよ」とわたしが渡した他のおもちゃ用の小さな釣りざおで満足していました。
☆くん、お友だちと仲良くしようと努力しているな、みんなと楽しく遊べているな、と
感じました。とはいえ、時折、横柄な口調になったり、
お友だちに順番を代わってもらう際に乱暴に手から奪い取ったりする場面もありました。
どんな態度が相手を驚かせたり、怖がらせたり、悲しい気持ちにさせるのか
想像するのが難しいのです。
子ども同士の輪に、適度に介入して、
上手なやりとりを学んでいけるようにサポートしました。
15分経った後で、何をしたいか話しあいました。
○くんが「工作がしたい」と言い、☆くんも賛成しました。
◆くんは「ゲームがしたい」と言いました。
そこで、「最初に工作をし、その後でゲームをしてはどうか」と提案すると
全員納得しました。
☆くんと○くんはポップコーンを製造する機械を作り始めました。
ストローで空気を吹き込むとポップコーンがぽんぽんはじけます。
お札とコインを入れるための投入口も作りました。
◆くんはみなが工作を始めると、うろうろして
おもちゃの入った引き出しを探っていました。
それでも、「◆くん。15分経った後からは、決まり決まり。
おもちゃを触ってはダメよ。今は工作をするのよ」と言うと、
素直に従いだします。
でも1分もしないうちに、再びうろうろしておもちゃのところへ向かい、
注意されると、はっとした表情をしてこちらに従うことをくり返していました。
◆くんは、指示されたことを守ろうとする
まじめで素直な性質の子です。
でも、自分が何をしていたのかすぐに忘れてしまったり、
ルールの内容から自分に期待されていることを具体的に理解するのが
難しいようでした。
イラストなどで、「絶対、周囲と同じことをしなくてはいけない場面」と「自分で自由に活動を選んでもいい場面」
の違いを教えていってあげる必要も感じました。
☆くんは工作が大好きです。そのため、他の子より先に作品を仕上げました。
作り終えたからうろうろしてもいいと思ったのか、
発泡スチロールが入ったトレイを手に持っておもちゃのところに向かいました。
そして、くるくる回して玉を落としていくおもちゃに発泡スチロールの玉を入れようとしました。
「☆くん、それはダメ。それはしちゃいけない。
今は、工作をする時間で、おもちゃを触ったらダメだったよね。ルールだよね」
と言うと、
「これ(玉)を入れるんだよ」と言い張りました。
「工作の材料をおもちゃの中に入れるのは禁止。
今はおもちゃを出してはダメ。しまってきてちょうだい」と言うと、
手が滑ったようで、発泡スチロールの玉を床中にぶちまけてしまいました。
「大変、大変。散らかっちゃった。
みんな片付けるのを手伝ってちょうだい。拾ってね」
と言うと、◆くんと○くんは拾い始めましたが、☆くんは知らんふりして、再び工作の続きをしはじめました。。
「☆くん、自分でひっくりかえしたんだから、自分で拾ってちょうだい」と言うと、
☆くんは、「そんなことを言う先生は嫌だよ。やめてよ。そんなこと言うの。」とイライラした口調で言いました。
その時、○くんはニヤニヤしながら、「自分でひっくりかえしたのに、片付けなさいって言われたら、
そんなこと言うのおかしいなぁ」と言いました。
そう言いながらも、まだ玉を拾っています。
◆くんは、わたしに「拾って」と頼まれたので、玉を拾い続けているものの、
○くんが言っている言葉の意味がわかっていないようでした。
「☆くん。自分でひっくりかえした玉は自分で拾ってちょうだい。ほら、お友だちが
手伝って拾ってくれているでしょう?ありがとうってお礼を言って、
☆くんも玉を拾いなさい」
そう言うと、☆くんは、さらにイライラした声で、
「もう!なおみ先生ははやくぼくの工作を手伝ってよ。ここがちゃんと切れてないじゃないか!
穴が開けてほしいのに、早くやってよ。もう!」と言い放ちました。
「☆くん。工作は、自分でするものよね。自分のお仕事。
それから自分が散らかしたものを片づけるのも自分の仕事。」
そんな☆くんとわたしのやりとりを
○くんだけは、よく理解していたようでした。
ところが当の☆くんと
手伝ってくれている◆くんは、
何があったのか、何を言われているのか、どうすべきだったのか、どんな行動がよくなかったのか、
正しくわかっているように見えませんでした。
☆くんも◆くんも
状況の一部分だけを捉えて、解釈しているようです。
☆くんは、自分がルールを守らなかったことや、うっかりして玉をひっくりかえしてしまったことや、
自分の失敗は自分で責任を持たなくてはならないということや、
自分が散らかしたのにお友だちがそれを拾ってくれているので、自分もそれに参加する責任があるし、
「ありがとう」と言わなくてはならないことなどを
無視して、
「先生がぼくに嫌なことを言ってくるから、やめてほしい」ということと、
「ぼくがしてほしいと思っていた工作を、先生がしてくれていない。ぼくの手伝いをしてくれないなんて
不親切」ということに
気持ちを集中させて、文句を言い続けていました。
◆くんは、「○○しなさい」という具体的な指示には従っているし、◆くん自身は
人とトラブルになるようなことを起こさない温和な性質なのですが、
自分の周りで何が起こっているのか理解していないようでしたし、
やりとりされていることに意味にも気づいていないようでした。
☆くんはもちろんのことなのですが、◆くんにも、
こうした日常の場面をイラストつきの物語として
整理していって、気づく力や理解力を高める必要を感じました。
人形劇やごっこ遊びの舞台で演じるのもいいかもしれません。
これからも、そうしたメタな視点から自分のしていることを眺める機会を
たくさん設けていくことにしました。
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先の話に少し補足を付け加えさせてください。
アスペルガー症候群には、「孤立型」「受動型」「積極奇異型」の3つのタイプがあるとされていますが、
欧米では、「尊大型」というもうひとつのタイプが指摘されているそうです。
尊大型とは、自分の主張を振りかざして、攻撃的で強圧的な態度で、周囲を振り回してしまうタイプのようです。
学力が高く、仕事で高い地位に就いている方に多く、家族にだけ尊大な態度で接する人もあるようです。
本人にするとかなり生きづらく、困り感を抱えているそうです。
それを知って、誰の言葉にも耳を傾けなくなる前に、
人との関わりに苦手さを持つ子たちに
ひとつひとつていねいに教えていってあげる大切さを感じました。