ユースホステルでのひとこま。
この日、初めて会ったばかりの年長のAちゃんとBちゃんが、
手に手をとって、ひとりで部屋にいたわたしのもとに現れました。
ふたりはお互いに思い詰めたように見つめあったり、
ワクワクする気持ちではちきれそうな表情を浮かべたり、
何やら小声で耳打ちしあったりしながら、しばらくもじもじしていました。
「なぁに?何か話たいことがあるの?」とたずねると、
Aちゃんが決心したようにBちゃんの手をにぎって、
「ねっ、先生にだけは秘密を話しちゃおうか?」とささやきました。
Bちゃんは「うーん」と答えを渋っているにも関わらず、
そのキラキラ輝いている瞳には、こちらに対する信頼感と親愛の気持ちが
揺らいでいるように見えました。
「秘密があるの?」と聞くと、
AちゃんもBちゃんも意味ありげに目配せしあいながら、こっくりします。
「先生に秘密を教えてくれるの?」と問うと、
Aちゃんが、「ねっ、話しちゃお」と言ったかと思うと、
わたしの耳に口を近づけて、「あのね……」と話しだしました。
それは、ちょっとした冒険でした。
最初に話を聞いた時、わたしが、「えっ、でも、上の階に勝手にふたりだけで行ったり
したら危ないわ。知らない人が声をかけてくるかもしれないし……もし、どうしても
秘密を実行したいなら、先生がそっと後ろからつけていくけどそれでもいい……?」と
言いかけるとふたりはびっくりしすぎて尻もちでもつきそうなほどあわてて、
わたしの勘違いを正しました。
「上の階に行くんじゃないよ。2段ベッドの上のこと……それで……」
よく聞いてみると、危険度ゼロのかわいらしい冒険でした。
「それは面白いことを思いついたわね。でも、○○は大丈夫なの?」
「うん、ちゃんと○○して○○するから絶対大丈夫」とのこと。
新しい秘密の共有者であるわたしに
目だけで真剣なメッセージを伝えながらふたりは帰っていきました。
AちゃんやBちゃんのように目で語る子たち……。
よくものがわかっているのに控えめで言葉が少ない子もいるし、
多種多様な溢れるような感情をうまく扱えなくて、つんけんした
あまのじゃくな態度を取ってみたりする子もいるし、
表情やすることからは利発さがうかがえるのにこれといったアウトプットがない子も
いるけれど、その瞳や雰囲気から感受性の豊かさやメタ認知力の高さが感じられると
いう子たちについて……最近、わたしの中で新しいちょっとした発見がありました。
これまで、子どもの「暗黙の了解をやり取りする力」とか「感受性の豊かさ」や
「メタ認知力の高さ」といったものは、自分の勘や感情で捉えるしかなかったのですが、
実は、今年、『ディクシット』というボードゲームを購入して以来、
(『DiXit』は、ドイツ年間ゲーム大賞を受賞し、
世界中に“コミュニケーション・ボードゲーム”のブームを巻き起こしたされる
有名なゲームです)このゲームに夢中になる小学2、3年生というのはたいてい、
幼い頃から目で語っていた子たちだと思いあたりました。
また、このタイプの子たちには、小学2年生くらいで高学年向けの物語を
手放さなくなる子もけっこういます。
「2段ベッドの上へ……」と秘密をささやいていたAちゃん、Bちゃんは、
翌日、ユースホステルの部屋を工作で再現していました。
創る上で、ベッドは必須の様子。
モールでていねいにはしごを取りつけていました。