「自閉っ子のこだわり」 を「能動的に取り組む活動」へと 橋渡しする 中間の活動
というのは、
必ずしも物に働きかける活動だけでは
ないと考えています。
何の道具も材料もなくても、自閉っ子の世界を広げていくお手伝いはできるはずです。
たとえば、こんな感じです。
★くんがバスのドアの開閉にひたすら
こだわっていたことを書きました。前回のレッスンの時に
★くんはバスの中に教室にあるものをあれこれ押し込んで遊んでいたのですが、
ハムスターの人形を出してあげた時に一番喜んでバスに乗せていました。
今回、「バスに入れるのがない。」とつぶやくのを聞いて、
「ハムスター乗せる?」とたずねると、パッと表情が明るくなりました。
自閉っ子たちと遊んでいて、強く感じるのが
こちらとの時間の感覚の違いです。
自閉っ子たちは、その場所でずいぶん前にあった出来事も
ほんの数分前にあったことのように鮮明に覚えていることが多いようです。
ですから、今遊んでいるものと関係なくても
本人の記憶の中ではリアルにつながっている物があれこれあるのです。
そうしたその子が過去に愛着を持ったものを
こちらが覚えておいて(覚えておくばかりでは無理があるので、できるだけ記録しておいて)
過去の場面をそっくりそのまま再現してあげるようにしています。
過去の場面といっても、大人の目から見た過去の場面ではなく
その子のこだわりにそった過去の場面ということですが。
すると、自分のファンタジーの世界にこもりがちな子や
警戒心が強くて人を拒絶するような構えが強い子も
そんな風に同じ過去を共有しているわたしに対して頼ったり甘えたりしてくるようになりますし、
ちょっと気を緩めて、新しい体験を受け入れてみようという姿勢が生じてきたり、
わたしが次にすることを期待するような態度が出てきたりします。
これまでの話とは反対に、もし身近な大人が、その子が過去に不快に感じた物とか
これまで触れたことがないので不安を覚えるものなどを
子どもを喜ばせよう、何か学ばせようとして
出してくると、自分の世界に閉じこもる態度を強固にすることがあるはずです。
自閉っ子は「甘えたい、近づきたい」という気持ちが高ぶると同時に
「離れたい、拒絶したい」という気持ちも高くなることが
多いようです。
そのため、「お母さん」のような
一番甘えたい対象が近ずくほど、たちまちやる気を失って、だらだらと崩れるような態度で過ごしたり、
同じ行動を反復し続けて自分の中に閉じこもってしまったりする
ことがよくあります。
そんな悪循環に陥っている時は、子どもによかれと思うことを
あれこれしようとがんばる前に、
遊びが広がらない自閉症の子との遊びを発展させていくこと5
で紹介した
「関係発達支援の基本」の 関係欲求をめぐるアンビバレンスに基づく悪循環を断ち切ること
を最初に目指すことが大切じゃないかと思っています。
★くんの話に戻しますね。
★くんはバスの中にハムスターを詰め込んでは、「ドアが開かない、開かない」と言って
ぶつぶつ言っていました。
この「ドアが開かない」という言葉は、わたしに何とかしてほしい、という意味を含んでいるようでした。
なぜドアが開かなくなるのかというと、バスのドアの開閉部分に
ハムスターが詰まってしまうからです。
正確に言うと、★くんがそこにハムスターを入れて
ドアが開かなくなるように、わざわざしているのです。
そこで★くんの「ドアが開かない」「開かない」を
困ってるんだな、嫌なんだな、とだけ受け取って、
「だったら、ハムスターをバスに入れるのをやめなさい」とか
「ドアの近くにハムスターを入れないように気をつけなさい」と言うのは
まずいな、と思いました。
なぜなら、★くんはまだ人と関わっていく力がとても弱い子だからです。
★くん自ら、他の人に関わっていこうとするのは
皆無に等しいのです。
とすると、たとえそれがわざわざ自分で作りだしている
不満や不平であっても、相手のフィードバックを求めて能動的に振舞っているなら
そのひとつひとつが大切なものでもあるからです。
といっても、その対応いかんによっては、
「問題行動を起こすと注目されるという」刷り込みとなって
自閉っ子に悪い習慣をつける可能性もあります。
ですから、こうした時の対応は、とても慎重に注意が必要だし、少しずつ良い関係へと変換していくもので
なくてはなりません。
わたしはひとつひとつの訴えに
本人が望む以上でも以下でもない、そのまんまの対応を繰り返すようにしています。
明らかに、「わざわざそんなところに入れるからでしょ?」という状態で、
「いったい、何十回、同じ失敗(おそらくわざと)をしているのかな?」という場合でも
初めて要求された場合と同じように対応するのです。
それと同時に、そうした要求に応える言動が、★くんにとってわかりやすくて、
人に対する興味をそそるものとなるように工夫しています。
もしそれが難しいと感じる方はパーキング等の自動券売機のような音声が出る機械になったふりをして
遊んであげるのでもいいです。
★くんは、「どうして開かないのかな?」と注意深くドアの中をのぞきこみ、
「あっ、こんなところに詰まっている。ハムスターが詰まっている。」と言ってから、
ゆっくりバスをひっくり返して、
トントンと詰まった部分を叩いて、ハムスターを移動させて、
「うまくいったかなー?」と★くんの期待と自分の期待を重ね合わせるように息を合わせて
ドアを開くという一連の作業に心から満足しているようでした、
そうしたまるで機械のように
望んだことを望んだように返してくれる相手に
自閉っ子は信頼や安心感を寄せるようになってきます。
そうして信頼や安心感が見えはじめると、
強迫的な繰り返しは減り始め、自分から能動的に働きかけてくるものも増えてきます。
★くんの変化は、こんな感じでした。
初めのうちは、座り込んだまま、険しい表情でうつむいたまま、「バスのドアが開かない」と
半ばおもちゃに当たるような調子で繰り返していたのが、
だんだん、こちらを呼ぶような口調で、「ドアが開かないドアが~」とイライラした声になり、
しまいには、自分からバスを持ってきて、「ドアが開かない」と言いながら
わたしにそれを付き出すようになってきました。
そうして何とかしてほしいという様子で持ってきながら、
ちょっと甘えるような仕草をするようにもなりました。
ある時、わたしにもたれかかって、こんなものを見せてくれました。
バスにはドアの開閉ができる面と
写真のように開かないドアが描かれている面があるのです。
★くんはその開かないドアを指さして、「どうやって開けるの?」とたずねました。
おそらくどうして開かないのか、★くんはわかっているのです。
見たところ開きそうもない作りですから。
それでも、わたしが開けようと試みて、「うーん、開かないね。開かないドアだね」と言うと、
満足した様子で、フッと笑って、
予想したことが予想通りでとってもうれしいという態度で、
バスを抱えて自分の遊びの場に戻って行きました。
次回に続きます。