ユースホステルの朝食はバイキング方式で、パンやソーセージやフルーツや魚など、
好きなものを好きなだけ自分の皿に持って食べるスタイルでした。
2歳から6歳までの子どもたちは、氷水やジュースを取ってきたり、スプーンを並べたりして
朝食の準備を手伝っていました。
◎ちゃんのお母さんは、席に着いて待っている◎ちゃんの前に
自分と◎ちゃん用にたっぷり盛った皿を置きました。
「いただきます」の後で、◎ちゃんのお母さんは、皿の上の料理を次々と◎ちゃんに勧めだしました。
その熱心さから、栄養のあるものを少しでもたくさん食べてもらいたいという
気持ちが伝わってきます。
◎ちゃんは食が細い子です。
おまけに前の晩の食事量が多かったためか、お母さんが矢継ぎ早に
「オレンジは?」「パンを一口食べてみる?」と勧めるごとに、
口をへの字に曲げて、不機嫌そうなやぶにらみの顔を作って
椅子にもたれかかっています。
それでもお母さんが、「1つだけ食べたら?」「ほらオレンジ。食べてみて!」と
催促するので、「食べさせて!お母さんが食べさせて!」と口の中でもごもご言っていたかと思うと、
その後からは、「さぁ、食べなさい」「ソーセージは?」とお母さんが口をきくたびに
キレ気味のキンキンする声で、「食べさせて!お母さんが食べさせて!」と喚きはじめました。
お母さんの話では毎日、こうした食事風景が繰り広げられているそうで、
いつもは根負けして、4歳の◎ちゃんに対して、まるで0,1歳の赤ちゃんにするように
お母さんが食べさせてあげることも多いようです。
しつこいほど「お母さんが食べさせて!」とごねている◎ちゃんは、
外から見ると、
大人からの誘いかけに「イヤ」と反発ばかりしている
わがままな子のように映ることでしょう。
でもわたしは◎ちゃんのこうした荒れは、
きちんとお母さんに対して「イヤ」が言えていないことに
原因のひとつがあるように感じました。
もちろん、言葉だけに注目すれば、◎ちゃん、口を開けば「イヤ」ばかりなのです。
でも、この食事シーンを含めてさまざまな場面で、
実際には、◎ちゃんのお母さんの想定の中に◎ちゃんという個人が「OK」と「イヤ」の
ふたつの選択肢を持っている自立した存在だと感じられていないように見え、
それが◎ちゃんの荒れた言動を引き出しているように思えることがたびたびあったのです。
◎ちゃんとお母さんの関係の中で、◎ちゃんの「イヤ」という気持ちは
あってもないものとして、受信されないものとして、意味として認められないものとして
扱われているように感じたのです。
次回に続きます。