今日は普通級に在籍しているけれど、
学力に気がかりなところのある小学1年生の子たちのレッスンでした。
教室に着くなり、「工作がしたい!」と言い合っていた子どもたち。
何が作りたいのかたずねると、スライムとか、ドールハウスなんて意見が出ていま
したが、しまいに「プラネタリウム」で意見がまとまりました。
どんなふうに作りたいのかの話しあいで、
自分の誕生日の星座を作って映したいと★ちゃんが言い、
他の子らもそれに賛成しました。
星の図鑑を見ながら、紙コップに星座になるように穴をあけて、
セロファンを貼りました。
冬の大三角です。
プラネタリウムは、部屋を暗くして、テーブルの裏で。
はと座とうさぎ座を作ったそうです。
みんなプラネタリウムが成功してすっかりうれしくなった様子で、
次はそれぞれ自分の好きなものを作りたいと言いました。
☆ちゃんは自動販売機。
◆ちゃんは、腕が飛び出すしかけのロボット。★ちゃんは電子レンジ。
●ちゃんはお金入れを作りました。
腕が飛び出すしかけのロボットは、「バネがないから飛びださない」と言うので、
モールや針金でバネを作る方法を教えて作ったのですが、
即席で作ったばねの威力はイマイチでした~(ロボットというより、
ロボットの腕部分だけを製作していました)。
◆ちゃんにするともっとポーンと飛び出すくらいにしたかったようなのです。
そこで、輪ゴムの力で飛ぶようにすると、しっかり飛び出すようになって
大喜びしていました。
どの子も物作りを通して、自分の伝えたいことを言葉で表現したり、
目標を定めて最後まで物事に取り組むことが上手になってきました。
このグループの1年生たちは、
教える上で少していねいにサポートする必要はあるものの
実際の学力は学年以上のものが身についてきてはいます。
この日も最レベ問題集1年生(奨学社)の総合実力テストをしたところ、
どの子もしっかり解けていました。
この1年で急速に知力が伸びてきたのです。
ただ、そのようにペーパー上のテストは良い成績を取れるようになったとはいえ、
それぞれの子が、ひとりひとり別の困り感を抱えてもいて、
今後もていねいなサポートを必要としているのも感じました。
特に気をつけているのは、「教わったことならきちんとできるけれど、
初めて何かに取り組む時にその年齢の子なら当然わかっているだろうと思われる
暗黙の了解がわからなかったり、直観的にわかるはずのことができなかったりする」
という点です。
そのため、目新しい課題を前にすると、
今にも泣きだしそうにおろおろする子、何をしなくてはならないかということも
忘れて落ち着かなくなる子、トンデモな推理をしてお友だちに笑われる子、
どこから持ってきたのかわからないような答えを次々並べる子などが続出するのです。
「だいたい、こうだろう」と当たりをつけることが苦手なようです。
また、そうした体験の不足も気になります。
「だいたい、こうだろう」と当たりをつける体験の不足といえば、
先日もこんな気になる場面に遭遇しました。
小学3年生の知的障がいの女の子、◎ちゃんのレッスンでの出来事です。
(◎ちゃんは、今回の記事のグループではありません)
わたしは◎ちゃんが、できないことやわからないことにぶつかった時
どのような反応を取るのか知りたいと思っていました。
ちょっと考えてみて、「わからない」と言うのかな?
しばらく考えこんで、「わからない」と言うのかな?
適当な答えでもいいから、「こうかな?」「ああかな?」と言うのかな?
イライラして怒りながら「わからない」と言うのかな?
お母さんに教えてもらおうとするのかな?
教えてもらうとしたら、どこがどんな風にわからないのか指摘できるかな?
ショックを受けるのかな?
けっこう強くて、教えてもらいさえすれば、再チャレンジしようとするのかな?
わたしに「先生、教えて」とたずねてくるのかな?
そうした「わからない!」という事態に◎ちゃんがどのように対応するのか
把握しておきたかったのです。
ところが、困ったことに、いつまでたっても、◎ちゃんが「わからない」に
自分なりにどう対処するのか把握できないのです。
◎ちゃんが、「わからない」ことに遭遇しないわけではありません。
それこそ、見るもの触れるものわからないことだらけではあるのです。
でも、どうしてわたしが◎ちゃんの対処法を把握できないのかというと、
◎ちゃんが、「わからない」ことを、自分で「わからないな~」と感じとるよりも前に、
◎ちゃんのお母さんが、「~しなさいよ」「~は?」「~して!」と
次にすることを教えてしまうからなのです。
◎ちゃんは、「お母さんの言葉」というスイッチで動いているかのように、
反射的には何かするけれど、自主的に何かする姿はありません。
でも、遊びの場面では、あれこれ思いついて好きなように振舞っています。
◎ちゃんのお母さんはとてもていねいに子育てをしておられる方で、
そのおかげで、就学した後も、2や3という数を認識することすら難しくて、
認知の歪みをたくさん持っていた◎ちゃんが、
今ではかけ算やわり算や国語の文章問題まで扱えるようになってきています。
ですから、これまでの子育てでは、◎ちゃんのお母さんの働きかけは
けっして間違っていなかったのだと思います。
でも、今、◎ちゃんはずいぶん考える力がついてきていますから、そろそろ、
「自分の頭で考えてみて、やってみて、結果を見て、その良し悪しについて判断を下す」
という体験が必要なのかもしれません。
そうした自分でしてみた体験の積み重ねから、
目新しい課題にチャレンジする時も、「こうじゃないかな?」と当たりをつけてみる
こともできはじめるはずです。
そんな話を◎ちゃんのお母さんに伝えて、
◎ちゃんに教える言葉を控えていただく約束をしてから、
わたしは◎ちゃんとゲームで遊んだり、勉強したりしました。
ゲームは『キティーちゃんのモノポリー』です。
◎ちゃんは、青いカートの絵があって、「もう一かいふる」と書いてあるマスに
止まりました。
わたしは、「◎ちゃんはどうするのかな?」と思いながら黙って見ていました。
◎ちゃんは、「こうしなさい」と指示をもらえないので、
一瞬、ボーッとしたまま過ごしていたのですが、
ひらめいたように、「も、う、いっ、か、い、ふ、る」とマスの字を読んで、
また、ボーッとしていました。が、こちらが何も言わないのに気づくと、
「あぁ、あぁ、サイコロをふることかな?もういっかい?」と言って、
サイコロではなくルーレットで遊んでいたのですが、そこには気にかけず、
ルーレットを回しました。
「◎ちゃん、よく気づいたね。ちゃんと字を読んで、どういう意味かなって考えたら、
どうするかわかるね」と言うと、ニコニコしながら、コマを進めていました。
また、算数の学習では、
「午前8時から 午前11時までは( )時間」とある問題で、
何も言わずにいると、「ご、ぜ、ん~」と問いを読んだ後で、指示を待つように
首をかしげていました。
そこでもわたしが、、「◎ちゃんはどうするのかな?」と思いながら
黙って見ていると、◎ちゃんはリラックスした様子で、問題のすぐ上にある
時間の帯を指しながら、「この8?これが8時?」とたずねました。
「そう、よくわかったね。わからない時は、近くにある図を見れば
わかる時があるね。8にしるしをつけておこう」と言うと、
8に丸をして、縦線を入れてから、またボーッとしていました。
が、それでもわたしが黙っていると、思い出したように問題を見て、
11にもしるしを入れました。
それ以上は難しかったようなので、8と11の間に色をつけてあげると、
それだけで了解した様子で、3(時間)と書き込みました。
◎ちゃんのお母さんは、教える前に◎ちゃんが、自力でどこまで考えることができて、
必要なサポートが何なのか具体的に見極める大切さを実感なさいました。
いくらなんでも、本人が「わからない」と感じる体験もできないほど
教えてしまっては、できることとできないことの境界が見えなくなってしまいますから。
◎ちゃんのお母さんの話では、◎ちゃんが通っている支援級の先生や他の大人たちも
1から10まで先取りして◎ちゃんに教え、それを繰り返させて
定着させることだけを大切にしているそうなのです。
◎ちゃんはワーキングメモリーが弱い子なのですが、
そうした記憶力の弱さは必ずしも生得的なものだけが原因ではなくて、
自分で覚えておかなくても、ちょっと、ボーッとしていれば、次にすることを
指示してもらえるという習慣によるものもありそうでした。
というのも、◎ちゃんは好きな「ウノ」などの
ゲームは、必要なことをちゃんと覚えていて、けっこう手ごわいという一面があるのです。
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話を今回のグループレッスンの子たちに戻しますね。
ひとりの女の子はいったん理解するとかなり高い能力を発揮する上、
字も絵もしっかりしていて、利発な印象を受ける子なのです。
でも、非常に易しい事柄でも、やったことがないことには
想像力や思考力が働きにくいようで、不安に囚われておろおろしてしまう
姿があります。
こうした神経過敏で怖がりな子に対して、
「自分でしなさい」「自分で考えなさい」とつっぱねるのは
酷な気もします。
一方で、自分でどのように対処するのか、どこまで手助けするのが妥当か……という
ことを考えてもみないで、毎回、本人の求めるままにサポートしていると、
教えてもらうまで自分で考えない、想像してみないという習慣もつきがちです。
なら、どうすればいいのか……というと、
機械的に指示を与えたり、教える作業に入るのではなくて、
「どんなふうに対処するかな?」と自分から助けを求めてくるまでは
一歩引いて待ってみることが大事だと思います。失敗した時も、
「誰でも失敗するし、失敗をおそれずやってみるのは勇気がある証拠!」と
話してきかせるといいかもしれません。