日本の造船各社が「無形資産」を生き残りの帆にしている。引き金は脱炭素。海運業界がアンモニアや液化天然ガス(LNG)など次世代燃料船への舵(かじ)を切るなか、建造より設計やエンジニアリングという“頭脳”の開発に針路を定め、脱炭素の大波を乗り切ろうとする。建造規模では中韓勢に完全に水をあけられた日本勢だが、次元の異なる海図を描き挽回を期す。

 三菱重工業グループの三菱造船が2022年から売り歩いているサービスがある。その名も「MiPoLin(ミポリン)」。往年の女性アイドルのニックネームと勘違いしそうになるが、さにあらず。三菱造船の船舶設計技術を外販用のソフトウエアとして切り出したのがミポリンだ。

 造船会社や海運会社が寸法や排水量、エンジンの出力などを打ち込むと、三菱造船が持つ設計データベースから候補となる「船型」を自動提案。海運会社は提案された船型をベースに造りたい船をカスタマイズしながら簡単に設計できる。

 独自のCFD(流体力学)解析で船の形状を最適化したり、船の推進を左右するエンジン出力やプロペラ性能も瞬時にはじき出したりして設計に織り込むことができるという。

 例えば、穀物や鉄鉱石などを運搬する「バルク船」しか手掛けていなかったメーカーがコンテナ船に参入しようとしても、設計ノウハウに乏しい。そこに“エンジニア”であるミポリンを起用すれば、自社リソースがなくとも設計ができるというわけだ。