この小説は、新聞に載っているときに猛烈に
読みたいと思っていたもので、実際新聞連載時に
こらえきれず少し読んでしまったもので、その
きっかけになったのはガープ川という章の名前
でした。
ガープといえばガープの世界であり、ジョン・アービングの
奇妙な熊の着ぐるみをかぶったホモっぽい肉体をベンチプレスで
鍛え、兄弟でセックスしてしまう世界を連想する一つの作家の
部屋というか宇宙です。
そしてこの小説が沖縄を舞台にしており、記憶がない男が主人公
らしいことを記憶にとどめ次に久しぶりに新聞をまたこらえきれず
読んだ時には柏崎が舞台になっており、この沖縄と柏崎がどう
リンクしてるのかとても興味が湧きましたが、いつか単行本に
なったときに読んのを大変楽しみにしていました。
しかし、いつか読む本のリストに入ったまま読むことが
なくなっていました。
これは昨今の作家のはやりすたりの激しさと本の流通の変化で
店頭で売れる本、売られる本のあり方が変化したからだとも
思いました。
久しぶりに手にしたこの本は、いろいろ当時の小説を読んだ時
のことや色々思いだすことなどもあり、これも小説を読む醍醐味
であると思うのでした。
そして、本として読むと新聞で読んだ時とまた違うイメージと
力を感じました。
また当時の自分と今の自分の変化もこの作品を通してしることが
出来たこともありました。
壊れていくさまとかこの作家の本領を感じさせる魅力の詰まった
物語ですが、堪能したうえで苦言をいえば、結末のまずさは
この作家の特長かという思いを持ちました。
映画にもなった『OUT』では社会現象化してマスコミにも本人が
登場して結末や本のテーマについてインタビューを受けるという
シーンを見たことを思い出しました。
つまりはこの作家は書いていてその壊れた世界を語る楽しさに
夢中になりすぎて終わりにしたくなくなって突然もうやめるのよ
と親に言われて取りやめにする子供のようなタイプなのではと
思います。
本人は得意に言なって語っている様が主人公の耳をふさいで
ほしいという二度出てくるフレーズに現れていますが、さして
主人公の必然を感じないところが残念なところです。
しかし、この主人公が感じた全能感など共感できるところも
あり、物語から離れられない感じです。
結末が予想されることや主人公が少女趣味的に恋愛してメロドラマ
的に結末するというまずさはあるものの落ちてみたらまだしたが
あったという世界は諸行無常的であり、地獄めぐり的に読むのか
それとも諸行無常の確認なのか読み人の側で受け取り方に差が
出る話でもあります。
少し気になった点を書いておくと、マスコミの間違った宣伝
というのが文化を作るということで、これは朝日新聞の誤報
以来情報の修正というのは大事だという事とです。
誤った常識というのが誤ったまま生きてしまうことが問題で
この本の中でも焦げた魚を出されて激高してがんになるだろうと
騒ぐシーンが出てきますが、これもマスコミが喧伝した嘘です。
旅鼠の集団自殺などこの手の嘘が意外と生き続ける例をみる
ことが多々あり、その影響力を感じます。
何が正しいのかの確認作業のも大事だと思います。