King Diary

秩父で今日も季節を感じながら珈琲豆を焼いている

『抗夫』読了

2015年05月18日 12時47分54秒 | 読書


これは読もう読もうと思っていた本で実際
読んでみると思うほど読みづらく駄作だとも
思いませんでした。

よく漱石を読む人達は『草枕』のような美しい文体を
求めているのでしょうが、漱石についてよく語り
合う人々は『こころ』のような精神性について
テーマにします。

若い読者がこの小説を読んで感想を述べたものに
作者自らが返事したものが残っているという有名な
文献が残っていたり、現代のベストセラー作家が
この本をわざわざ登場させたりと色々と取り上げられ
いつか読もうと思っていた作品です。

かつて青空文庫をコピー用紙に出力して読んだ時には
ただ退屈な本だと思ったものでしたが、今回読んでみると
これはダンテの『神曲』だと思いました。

このまだ19の少年と家を飛び出し行く手のないところに
抗夫になれと声を掛けられてのこのこついていく
地獄めぐりの旅なのです。

自ら抗夫は最低で人間以下といいつつ、おちぶれる為に
ついて行き、その鉱山がどんなものか我々はまざまざと
体験するわけですが、実際どう働いてこの少年はどうなるのか
それをずっと読者は気にして読み進まされます。

『国銅』『メタボラ』と読んできているのでこの抗夫が
人間以下とか死に場を求めて家出してしまったという話も
それぞれの世界観と対比して楽しめました。

しかし、現実その抗夫になる前から苦難は続き、抗夫からは
バカにされ、華厳の瀑にというセリフがでてきます。

当時自殺がはやったことや知識人層のやるせない感情とか
現代の派遣でしか働けない若者や大学を出て一流企業に
入ってもすぐやめていってしまう現状やブラック企業の
現状など現在にも鉱山はあるし、労働現場は依然厳しく
建設現場や介護現場で人手不足が続いて人件費が上がって
いるような報道がされていますが、それなのに実際には
介護福祉士やヘルパーの人達の労働環境が高賃金であるか
というとそんなことはなく、格差という言葉でその構造を
包み込んでしまっています。

本来我々はその格差を解消し、より豊かな社会を実現
することができるのか、それとも諸行無常という仏教の
理をといているのかこの小説には地獄めぐりと同様に
重要なテーマがあるのです。

それは読者が受け取るかどうかで違いますが、とにかく
鉱山で出会う親方や案内人や安さんそれぞれと出会い少年が
どう変わってどうなったかを体験してみるしかありません。

当時華厳の瀑を自殺の名所として広めたことにこの小説が
加担していなければいいのですが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする