金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
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205:永井路子『絵巻』

2020-09-22 16:31:39 | 20 本の感想
永井路子 『絵巻』
★★★☆☆3.5

これは初読。
鼓判官と源通親が主役になっていると聞いて、
「永井路子歴史小説全集」で読んだ。

・清盛の父・平忠盛
・後白河上皇の寵姫・丹後局
・鼓判官・平知康
・九条兼実を失脚させた源通親
・後鳥羽天皇の乳母・藤原兼子

この五人を主役にした短編を「絵」に、
信西の子・静賢法印の日記を「詞書」に見立てた
ちょっと変わった構成。
鼓判官は、木曾義仲とのからみしか知らなかったのだけど、
鎌倉まで下っていたのか。

思いがけず定家も登場していたのだけど、
「ぼわぼわっとした声」というのに
「ああ、それっぽい」と思った。
歌才と、昇進に執着する俗っぽさがひとりの中に同居する様子を、
するどい美意識と政治的無能を同居させた後白河上皇との共通項として
描いているのが印象的。

この絵巻風の構成は、
ひとつの物語としてはどうも盛り上がりに欠けるというのか、
ひとつひとつの話がきれいに締まった感じがなくて
物足りなさも感じさせるのだけれども、
院政期を俯瞰してとらえている点ではおもしろい試み。
ふだん主役として描かれないような人々に
スポットライトをあててくれるのもうれしいところ。
良経の暗殺疑惑の真相についてはちょっとかっこ悪いんだけども、
実際こういうことはあるだろうなと思った。
劇的な最期ではなく、本当に間抜けな、思いもよらないような最期を
迎える人がほとんどなのだろう。
コメント
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