六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

黄色い水仙のおとむらい

2010-03-24 01:09:22 | ひとを弔う


  モルバランは駆けることも忘れてぼんやりしていた。
  「どうしたの」
  と、メルリッチェルが訊ねた。
  「この前の強風で花が折れてしまった」
  「どんな花」
  「水仙」
  「たくさん折れたの」
  「一本だけ」
  「それならいいじゃない。今年は水仙がたくさん咲いたんでしょう」
  と、メルリッチェルは慰めるようにいった。
  「よくはない。黄水仙だ」
  「どうして黄水仙だといけないの」
  「たくさん咲いたけど黄水仙は一本だけだ」
  「アラアラ、たった一本の黄水仙を狙うなんて悪い風ね」
  「風は悪くない。花を折ろうとして吹いた訳じゃないし、黄水仙を
  狙ったわけでもない」
  と、モルバランはかばうようにいった。
  「それはそうね」
  と、メルリッチェルも同意した。

  「で、どうしたの」
  と、メルリッチェルが訊ねた。
  「どうしたって、そのままさ」
  「じゃぁ、倒れて地面に伏せったまま」
  「ああ」
  「それはかわいそうだわ。花は誇りをもって立っていなければ」
  「じゃぁ、どうする。添え木でもするか」
  と、モルバラン。
  「それも大仰で痛々しいわね」
  「そうだな」
  「じゃぁ、いっそのこと切り取って部屋に飾ってやったら」
  「それがいい。ではそうする」
  と、うなずきながらモルバランは立ち上がって駆けだした。
  
  風が耳を切った。
  「水仙、ごめん。水仙、ごめん」といっているようだった。


コメント
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