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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

初コンサートはプラハ国立劇場の「フィガロ」

2019-01-14 01:25:25 | 音楽を聴く
 モーツァルトとプラハは相性が良かったようだ。
 その歌劇、「フィガロの結婚」のウィーンでの初演は、さして評判にならなかったようだが、プラハでのその公演は大好評で、市内のあちこちから、「フィガロ、フィガロ」という声が聞こえると、モーツァルトはその手紙に自慢げに書いている。
 そんなこともあってか、その後、彼のオペラ、「ドン・ジョバンニ」や「皇帝ティトの慈悲」はプラハで初演されている。
 そんなプラハ国立劇場オペラが、新春早々、「フィガロ」を引っさげて来日するというので、12日の名古屋公演へ出かけた。今年の初クラシックライブである。

        
 この公演、昨秋から続く第36回名古屋クラシックフェスティバル(中京テレビ主催)の一環であるが、この「フィガロ」の全国の公演日程を見て驚いた。1月3日から始まって1月20日までの間、全国各地で13公演をするというのだ。
 そのうち、4日間連続が2回もあって、大道具の搬入設置だけでも大変だと思われる。いやそれ以上大変なのは身体が楽器だという歌手たちであろう。
 いろいろ調べてみると、果たせるかな主演級はすべてダブルキャスト、トリプルキャストであった。

        
 この公演の目玉は、伯爵夫人をエヴァ・メイが歌うということなのだが、残念ながら名古屋公演ではマリエ・ファイトヴァーというソプラノ歌手であった。ただし、後者の名誉のためにいっておくと、そのリリックな歌声はしっとりと伯爵夫人の悲哀を歌い上げていて聴衆の反応も良かった。

 スザンナもダブルキャストで、そのうちの一人は、沖縄出身の金城由紀子さんだったが、これも残念ながらもうひとりのヤナ・シベラの方だった。

        
 オケはプラハ国立劇場管弦楽団、指揮はエンリコ・ドヴィコだったが、今回は小編成だったと思う。だいたい、今回の名古屋市民会館も古い劇場でオケのためのピットもなく、舞台前方に設けた臨時のそれは狭小だった。
 だから、序曲が始まったときに若干の違和感を覚えていた。ふつうこの曲を私たちがナマで聴く場合は、オケの公演などの小手調べや、あるいはアンコールで聴く場合が多い。それらに比べてやはり音量が違い、これからオペラが始まるのだというオペラ・ブッファの名前奏曲と言われるこの曲のワクワク感がイマイチのような気がしたのだ。

        
 もっとも幕が開き始まってしまえば、そんな危惧も忘れ舞台の展開に溶け込むことができたのだが。
 あと、欲をいえば、スザンナが小振りすぎたこと、その対比でケルビーノが大柄すぎたことなどもあろうか。

        
 ただし、これらの私が感じたマイナスイメージは、私がかつて見たこのオペラの本場のそれを基準としていることを白状すべきだろう。
 1991年8月27日、モーツァルト没後200年のいわゆるモーツァルトイヤー、私はザルツブルグの祝祭劇場で、ベルナルト・ハイティンクが振るウィーン国立歌劇場管弦楽団のもと、このオペラを見ているのだ。
 その折には、まだオペラについてはまったくの初心者だったが、逆にそれが脳裏にしみ付いている。
 オケのピットも当然のことながらもっと広く、序曲を始め、あらゆる演奏がはるかに豊かに響きわたっていた。

        
 いちばんもの足りなかったのは第4幕だ。これは第3幕までに散りばめられたエピソードがすべて集約されるということで、奥行きの深い舞台が要求される。一般にオペラのステージはその間口よりも深い奥行き、あるいは同等ぐらいのそれを要求される。それだからこそ、複数のエピソードが同時進行的に展開されるこの第4幕にはその奥行きが欲しかった。
 そこでの歌声も、遠いものは遠く、近いものは近く、立体的に響き、もともと虚構の舞台とはいえ、その虚構にリアリティを添えることとなる。
        
 しかし、もともと、オペラ用ではない名古屋市民会館の舞台にそれらを要求するわけにはゆかないことを重々承知の上でこれを書いている。

        
 なお、今回の演出についていえば、ケルビーノを強調しているのが目立った。ちょこまかする彼を強調するため、二人のケルビーノを登場させたり、必要以上に伯爵夫人にいちゃついたりするシーンが目立った。
 これは、ボーマルシェの三部作(「セビリアの理髪師」「フィガロの結婚」「罪ある母」)について、「フィガロ」の続編の「罪ある母」での伯爵夫人とケルビーノのエピソードを意識した演出のようにも思えるのだが、そこまで先読みをすべきかどうかはいささか疑問が残るところだ。
 「フィガロ」はそれとして閉じてもいいのではないだろうか。

 いろいろ批判めいたことも書いたが、それはそれとして、久々にナマのオペラを観ることが出来て、楽しく、かつ、エキサイティングな夜だった。

        
 
1991年、ザルツブルグでの「フィガロ」のデータを貼り付けておこう。収録日にズレはあるが、バルバリーナに尾畑真知子さんが起用されるなど、ほぼこのとおりだったと思う。

ハイティンク指揮の『フィガロの結婚』のデータ
ベルナルド・ハイティンク指揮,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
演出ミヒャエル・ハンペ

キャスト
伯爵(トーマス・アレン),伯爵夫人(リューバ・カザレノフスカヤ),スザンナ(ドーン・アップショー),フィガロ(フェルッチョ・フルラネット),ケルビーノ(スザンネ・メンツァー),マルチェリーナ(クララ・タクカス),バルトロ(ジョン・トムリンソン),バルバリーナ(尾畑真知子),アントーニオ(アルフレート・クーン),バジリオ(ウーゴ・ベネルリ)

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