衆議院選挙が終わりました。
フェースブックやツイッターでもって、懸命に、政権交代のために健筆を振るわれた方々は、深い無力感に沈まれました。
原因究明の意見も多く登場しています。
そのなかで意見対立が起きて、一寸したケンカのような状態になっている事例も出ています。
どちらもつよい閉塞感にさいなまれて、結果的に内輪げんかのようになるのです。
子どもの受験が失敗に終わって、内輪げんかに陥る夫婦と同じ心理です。
私がフォローしてきた金子さん(男性)に議論参加した広瀬さん(女性)、お二人の間にも、今朝それをみました。
お二人とも知的で誠実な方です。特に金子譲さんは、政権交代のために獅子奮迅の論説を発信してこられました。
これをみて、鹿嶋はいたたまれなくなりました。
これを政治見識を高める方向をたどる機会にするために、政治経済の基礎知識をここに提供する心を決めました。
なぜなら議論の行きづまりといらだちのケンカは、この基礎知識の希薄さが遠因になっていることが多いのです。
金子さん、広瀬さん、晋三君政権の暗雲の中でも、基礎を明確に認識しましょう。
早速始めます。
(なお、この議論には、前の投稿と重なる面があります)
まずはマルクス理論で理解があいまいなところを補填します。
これは、「サヨク」とか「リベラル」を排除するとか「共産党と組める」「組めない」といった現代日本の政治意見と関連しています。
みんな理解が曖昧なために、論者自らの意識が漠然としているのです。
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これらの意見はみなマルクス思想の理解をベースにしているものです。
マルクス思想の人間心理への影響は巨大なものがあります。
ベルリンの壁が崩れても、それはいまも人類社会の底辺に力強く潜在しています。
まずは、そのマルクスの社会経済理論の骨子をレビューしましょう。
<マルクスの経済思想>
マルクスは社会経済理論を、資本主義社会の「分析」から開始しました。
資本主義社会は、人民を自由にしておき、市場メカニズムの調整作用でもって生産活動を維持しようというシステムの社会です。
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たとえば、スマホ1台を造るにも、気が遠くなるほどの多くの部品を集めて組み立てます。
部品のどの一つが足りなくても、スマホは出来ません。
その部品もまた、数多くの原料を加工して造られています。
(以下、その連鎖は続きます)
これら材料、原料の供給量を調節するのが自由市場における価格なのです。
業界で不足気味になれば、価格は上昇します。
部品業者は「ならば」と供給量を増やします。
逆に過剰であれば、価格は低下します。
すると部品業者は「ならば」と生産を減らします。
すると、価格は上昇して、適正なところで止まります。
こうやって市場価格が需給量を調整するのです。
(これらには、強欲な人間の人為的価格操作も介入しますが、基本的には上記のごとくです)
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だがマルクスは、このシステムは必ず行き詰まる,と考えました。
その論理は次のようになっていました~。
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~資本家は、生産手段を私有している。
彼らは労働者にしかるべき賃金を支払わない。
つまり搾取をしている。
資本家はその搾取分を独り占めし、その一部を自分たちの贅沢な生活に使い、残った分を、生産機械に再投資する。
すると、器械が増えて生産効率が上がり、その分労働者がいらなくなる。
削減された労働者は失業者となる。
すると、それだけ国家の総所得が減少し、商品需要も減る。
そうなればその分、生産も出来なくなり、また、雇用が減少し、需要が減る。
以下、同様のプロセスが進み、資本主義方式では、国家の経済はこういう縮小循環をしていく。
生産手段〔機会や原料)をたくさん持ちながら、それを発揮できない状態になっていく。
いわゆる「豊富の中の貧困」に陥っていく。
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<根本原因は私有財産制度にあり>
マルクスは、この動きは必然的であるとし、その真因は私有財産制度にあると認識しました。
つまり~
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資本家は、工場、機械を我が物にしているから、搾取が出来る。
そこで私有財産制をなくし、生産手段を公有化すれば、経済の桎梏(しっこく:手かせ足かせ)はとりのぞかれ生産力は全開する。
そうすれば人類は、豊かな理想郷に至ることが出来るだろう。
そのために労働者・民衆が革命によって生産手段を公有化すべきである。
(政府は警察、軍隊という暴力手段を持っているから、革命はこれを覆す暴力革命となる)
そうすればもう宇多田ヒカルの世界だ。
理想社会は「イッツ・オートマチック」に実現されるだろう。
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~これがマルクスの社会思想であり、歴史観でした。
これは人類社会にぶち込まれた思想のダイナマイトでした。
マルクスは、「共産社会」という平等世界の夢を秘めた強烈極まりない理論を、人類社会に投げ入れたのです。
<革命後経済運営観における盲点>
だが、大天才マルクスも人間です。
やはり盲点があった。
それは革命後の組織運営面でのものでした。
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彼は、私有生産手段を公有化すれば、理想社会はオートマチックに実現すると思っていました。
だが「イッツ・オートマチック」は、宇多田ヒカルの歌の世界だけの出来事なのです。
実際には国家社会は暗黒の全体主義に入っていくのです。
これについては別の機会にもう少し詳細に述べるかもしれません。
が、とにかく骨子を言うと実体はこういうことです~。
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資本家から企業をとりあげ国有化すれば、実際には、国家や地方政府の官僚・役人に、何百という企業を運営させることになります。
そしてこれを運営するのは、並大抵なことではないのです。
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革命前に一つの私企業を運営するだけでも、経営者〔資本家)は四苦八苦してきました。
なのにそれらの生産活動を、中央政府で一手に運営しようというのは至難の業なのです。
担当官僚は全国生産計画をつくるでしょう。
だが、これは本質的に大まかでアバウトなものにしかなり得ません。
そして、これに沿ってやろうとすれば、各生産活動にノルマを定めて、人民を命令=服従=懲罰の方式で管理するしかありません。
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~マルクスの社会共産方式では、実際にはそうするしかなくなるのです。
<恐怖で動かすシステム>
もちろん、人間、やってやれないことはない。
けれども、これは恐怖ベースで人を従わせる方式です。
恐怖感で動かされれば、労働者は、時と共に自発性を失っていきます。
企業内でも企業間でも、自己保全のために臨機応変な相互連携行為をしなくなっていきます。
あちこちで原料不足が起き、欠陥生産物が発生します。
<秘密警察、思想警察>
だが中央政府は、いまさら後に引くわけには行きません。
(引いたら反対勢力に処刑されるのです)
そこで人民の不満をいち早く押さえつけるために、企業内に労働者の相互密告制度をつくります。
政治活動もそうです。
人間は不思議なことに、自由の中で精神が躍動し、活性化するように出来ているのです。
だから社会主義以外の思想や政党活動を赦すと、人民がそちらにいってしまいます。
そこで共産党以外の政党は認めないという、一党独裁制度を実施するしかなくなります。
この体制を維持するためには、各地点に思想警察を忍ばせねばなりません。
極端な場合には、家庭内にすらも相互密告制をしかねばならない。
社会主義方式での生産活動を続けようとすれば、ごく自然に、こうなっていくのです。
かといって市場経済方式がベストだなどと鹿嶋はいってはいませんよ。
鹿嶋は、竹中何とかさんが言われているような市場原理主義者ではありませんよ。
ドグマティックな新自由主義者でもない。
安易に極論に飛ばないでくださいよ。浅薄なレッテルを貼らないでくださいよ。
<市場方式にも弱点あり>
市場方式でも「貧富の差が拡大していく」などの現象が起きるのです。
これには賢く対処しなければなりません。
だが実際のところ、市場経済社会に生きてきた人間にとっては、計画経済社会、共産主義経済社会はほとんど地獄となるのです。
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繰り返しますが、単細胞的に悪口を言っているのではありませんよ。
マルクス思想の持つこの不気味な「暗」の側面を、人類はきちんと知らねばならないのです。
知れば、それを活かすことも出来ますからね。
だが、人類はその道が見えなかった。
それは、ほとんどひとえに、マルクス思想が平等と博愛の理想社会を求める人間の本能にとって、
あまりに魅力的な要素を含んでいたからです。
次回にはそれを考えましょう。
(続きます)
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