Sightsong

自縄自縛日記

中国が朝鮮を舞台に作ったプロパガンダ映画、『三八線上』

2009-09-06 22:24:39 | 中国・台湾

『三八線上』は、タイトルの通り、朝鮮半島を南北に分つ北緯38度線を舞台にしている。中国の「RED CINEMA CLASSICS COLLECTION」のひとつであり、上海の書店でやはり15元(200円程度)だった。製作年は不明だが、朝鮮戦争が終わった後、かつモノクロであるから、1950年代か60年代だ。

話は、朝鮮戦争の終結時からはじまる。「平和を守る」38度線の北には、現地のオモニを母のように慕う若い兵士たちが駐屯している。北朝鮮軍も中国義勇軍もいる。皆、善良で元気である。ところが、南から米軍が機密文書を入手しようと侵入したり挑発したりしてくる。南側からスパイとして送りこまれた男は、実は、オモニの生き別れた息子だった。さらに、機密は、既に米国が送り込んでいた戦犯の日本人「山本太郎」が持っている。山本太郎(かならずフルネームで呼ぶ)こそは、日中戦争のとき、オモニの夫を生き埋めにして殺した男だった。米軍の陰謀は失敗し、ほうほうの体で逃げ帰るのだった。そして、中国義勇軍は、北朝鮮の民衆の大喝采のなか、毛沢東と金日成の写真が掲げられた門をくぐって帰国していく。

映画としての出来は散々で、中国・北朝鮮=善、米国・日本=悪、という至極単純なプロパガンダ映画だとしか言いようがない。役者も皆大根だ。それに、米軍も北朝鮮軍も当然のように中国語を喋っている。

ただ、この頃の中国が北に向けていた視線がそのまま反映されていて興味深い。中国参戦直後は38度線を突破し、ソウルを占領しているが、その後押し戻され、結果的には開戦時の南北分断状態とそれほど変わらない。しかし、「中国側は「抗米援朝」の戦いを「勝利」とみなした。世界最強の軍隊と戦い、その「対中戦略」の意図を挫折させたと判断したからである。」(『中国20世紀史』、東京大学出版会、1993年)のイメージを背景にした高揚も、きっとあったわけだ。

これを出来の悪いプロパガンダだというなら、逆向きの出来の悪いプロパガンダの方が何倍も溢れかえっている。

この後、軍事力の遅れを認識した中国は、ソ連のルーブル借款により、軍事力を整備していくことになる。

●中国プロパガンダ映画
『白毛女』