Sightsong

自縄自縛日記

『香月泰男・追憶のシベリア』展

2011-03-26 10:24:56 | 中国・四国

山口県立美術館『香月泰男・追憶のシベリア』展を観た。中学生のころから何度も足を運んだ美術館だが、本当に久しぶりだ。山口市が県庁所在地なのに寂しいのも相変わらず。ここには行くたびに香月泰男の「シベリア・シリーズ」を観ていた。私の父も、かつて大津高校で香月に美術の授業を受けている。

今回は生誕100年の特別展であり、まとまった量が展示されている。なお、同じ山口県の三隅町には香月泰男美術館があるが、「シベリア・シリーズ」を展示することはできないようで、小品が中心である。10年以上前に足を運び、それも良いものだった。

「シベリア・シリーズ」は全て、何かのマテリアルを練り込んだ絵具により、つや消しの黄土色と黒色の世界を形成している。奉天で終戦を迎えた香月は、そのままマイナス35度の極寒のシベリアに収容され、1947年にようやく故郷に帰っている。しかし、厳しく、仲間たちが次々に死んでいく「シベリア」を描くことができるようになったのは、帰ってから10年以上を経てからのことだった。苦しむ男たちの顔、亡骸の顔が骸骨のように彫り込まれ、あるいは浮き出ているイマージュを観ると、それも仕方のないことだったかと思わされる。

人々の顔以外にも印象的な作品がいくつも心に残った。「伐」は伐り株の断面。「荊」は有刺鉄線、冷え切った身体に刺さるようだ。「黒い太陽」、香月はこのような心象で真っ黒な太陽を視ていたのか。そしてたまに黄土色と黒色以外の世界が登場する。「雪山」は白と黒の雪景色、極寒が迫ってくる。「青の太陽」は、黄土色と黒色の世界に現れた青い空、太陽ではなく夜の星々だろうか。

久しぶりに接することができ、本当によかった。立花隆が頻繁にとりあげてはいるが、山口県以外の人たちにもこの世界を見せてほしい。


ジョン・フォード『黄色いリボン』、ロバート・クローズ『燃えよドラゴン』

2011-03-26 09:06:59 | 北米

山口の生家に疎開した際、ヒマな夜に棚にあったDVDを観た。古典ゆえ過去に観たものだが、何度観ても面白い。

■ ジョン・フォード『黄色いリボン』(1949年)

19世紀、退役が迫った騎兵隊長がジョン・ウェイン。「インディアン」たちが攻撃してくる中、女性ふたりを安全な場所に逃がすべく、駅馬車まで送り届ける最後の任務を与えられる。『荒野の決闘(いとしのクレメンタイン)』(1946年)において香水を付けて照れる男を描いたように、ここでも、三角関係がいい感じのユーモアになっている。朝や夕刻の風景描写も素晴らしい。

そんなわけで、さすがジョン・フォード・・・ではあるのだが、いま観ると、先住民(「インディアン」)を征服して国家を確立していった歴史が全面的に肯定されており、現在に至るまで数限りなく作られている「米国賛美」映画のひとつとして捉えざるを得ない(ジョン・ウェインがそのような存在でもあった)。女性の扱いだって典型的なそれである。

■ ロバート・クローズ『燃えよドラゴン』(1973年)

ちょうどこの間、ジョニー・トー+ワイ・カーファイ『MAD探偵』(2007年)(>> リンク)において登場する鏡の対決シーンにより、この映画のことを思い出していたところだった。改めて観ると、本家の鏡のシーンが数段上である。このメカニックなダイナミズムは、絵画ならばマルセル・デュシャン『階段を降りる裸体 No.2』(1912年)、小説ならば筒井康隆『バブリング創世記』(1978年)と共通する迫力を持つ。

それにしてもブルース・リー最高である。忍び歩きやヌンチャクのデモンストレーションだけでなく、格闘シーンでも、凄い速度で相手の足の甲を攻撃するなど、何でもありなのだ。タワーをどんどん登っていく『死亡遊戯』(1978年)もまた観なければ。