Sightsong

自縄自縛日記

佐々木信夫『都知事』

2011-03-30 00:13:44 | 関東

佐々木信夫『都知事 権力と都政』(中公新書、2011年)を読む。都民でなくなって長いが、何しろ都知事選である。数々の人権侵害発言を繰り返してきた石原知事に都民がどのような答えを出すのか、じっくりと見届けなければならない。

言動と独裁者然としたキャラクターばかりが目立つ石原知事だが、逆に言えば、私たちには東京都の政策があまり視えていないことを意味するのかもしれない(五輪招致などのイベントを除いて)。本書は、日本の自治制度に起因する都の権力構造、通常業務の姿、そして社会が求める政策と知事とがシンクロする流れなどを見せてくれる。

日本の自治制度は「二元代表制」を採用している。これは国会議員だけを選挙で選び、国会が内閣総理大臣を指名する「一元代表制」とは根本的に異なっている。住民は議員と首長とを別々に選ぶが、予算の提出権や議会解散権が首長にあるなど、首長の権限がかなり強い。そのため、国政とは異なり、知事も4年の任期を全うすることができる構造となっている。

都には独特の構造があり、弊害も多いという。4人いる副知事の権力増大、実務に特化した組織(政策マンが育たず官僚制の欠点である「待ちの行政」風土が蔓延)、競争原理の欠如といった問題点が指摘されている。また、都議会には(二元代表制であるから)知事と同等の立場として政策立案(立法)が求められているにも関わらず、実際にはそれは極めて少なく、知事サイドか否かによる勢力争いの場となっていると厳しい指摘がなされている。

大きな政治の流れとしては、東、美濃部、鈴木、青島、石原と、ハード重点・経済重視ソフト重点・生活重視との間を振り子のように揺れ動いていると分析している。経済にも生活にも多くの問題が顕在化しているいま、石原再選なのか、新たな権力者が選ばれるのか、いまの段階ではよくわからないところだ。

著者は強い大都市形成論者のようだ。東京の税収は東京のために使い、港湾や羽田空港などのインフラ設備を行い、それにより国際競争力を付け、その駆動力が日本全体への利益を生むのだとする考えである。返す刀で、「農村国家の体系のまま国が地方の面倒をみるというパターナリズム(父親的温情主義)を続ける限り、地方の活力は生まれない」と断じる。経済には大きな駆動力が必要であることはよくわかるが、ここでいう地方分権とは大都市のみを視ての表現である。疲弊し続ける地方への目線は、そのような新自由主義的なトリクルダウンでは不十分ではないかと思えてならない。

「平等主義から「選択と集中」により日本再生をめざす時代だ。日本は「夢のない国」と言われる。しかし、「夢はつくるもの」である。東京一極集中の弊害を取り除くためにも、他の地域圏を道州に再編し強化していくことが望ましい。これまでのような東京富裕論を何度繰り返しても、そこには何も生まれない。
 大都市圏は大都市圏の役割をしっかり果たせるように、地方圏は地方圏の持ち味を生かせるように国のかたちを変えていく。」

「平等主義」を棄て、「選択」されなかった地方は、オカネの還流も消え、さてどうなるというのだろうか。ここから先は、「道州制」の制度設計のなかで処方箋を見出すのだとでもいうのだろうか。