Sightsong

自縄自縛日記

マット・ミッチェル『A Pouting Grimace』

2017-11-12 23:48:02 | アヴァンギャルド・ジャズ

マット・ミッチェル『A Pouting Grimace』(Pi Recordings、2017年)を聴く。

Matt Mitchell (p, Prophet 6, electronics)
Kim Cass (b)
Kate Gentile (ds, gongs, perc)
Ches Smith (vib, glockenspiel, bongos, timpani, gongs, Haitian tanbou, perc)
Dan Weiss (tabla)
Patricia Brennan (vib, marimba)
Katie Andrews (harp)
Anna Webber (fl, alto fl, bass fl)
Jon Irabagon (sopranino sax, ss)
Ben Kono (oboe, English horn)
Sara Schoenbeck (bassoon)
Scott Robinson (bass sax, contrabass cl)
Tyshawn Sorey (conductor)

まるで多くの楽器を数学的に配置したかのような、精緻な万華鏡サウンド。マット・ミッチェルの曲作りに加えて、タイショーン・ソーリーのコンダクターとしての貢献もあるのだろうか。執拗に繰り返されバトンタッチされるパッセージの数々が、快感でもあり、悪夢的でもある。

戻ってきたときに浮かび上がるピアノらしいピアノの響きもまた素晴らしい。

●マット・ミッチェル
ティム・バーン Snakeoil@Jazz Standard(2017年)
マット・ミッチェル『Vista Accumulation』(2015年)
ティム・バーン『Incidentals』(2014年)
マリオ・パヴォーン『Blue Dialect』(2014年)
ティム・バーン『You've Been Watching Me』(2014年)
ティム・バーン『Shadow Man』(2013年) 


宙響舞@楽道庵

2017-11-12 22:21:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

神田の楽道庵に足を運び、「宙響舞」(2017/11/12)。

Tamayurahitode 玉響海星 (琵琶, voice)
Tamayurakurage 玉響海月 (electronics, etc.)
Yu Kimura 木村由 (dance)

ファーストセット、玉響海星+木村由。平家物語の闇の中で、既に死んでいるはずの躰が立ち上がり、ガラガラと鐘の音をたて、もののけのように口を鳴らしながら舞う。生と死の間の時間、しかし最後には力尽きて暴力的に倒れる。

セカンドセット、玉響海月+木村由。狂女か童女か、彼女の動きはエレクトロニクスがまるで光で上映するように創出しているように見える。サウンドは俗となり、それによる艶めかしさと怖ろしさがあった。

サードセット、全員。床には枯葉。最初と異なり現世での舞と音のように感じられる。しかし白い仮面は、現世が幻であったと悟るようにして、やがて自ら剥がされていった。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

●木村由
河合拓始+木村由@神保町試聴室(2016年)


李恢成『サハリンへの旅』

2017-11-12 11:48:07 | 韓国・朝鮮

李恢成『サハリンへの旅』(講談社文芸文庫、原著1983年)を読む。

サハリンの歴史は複雑である。1875年、樺太・千島交換条約により、日本はサハリンの領有権を放棄。アントン・チェーホフがサハリンを訪れたのはこの時期のことである。1905年、日露戦争後のポーツマス条約により、日本は南部を再度領有。1945年、ソ連が侵攻。1952年、サンフランシスコ講和条約により日本はサハリンにおける諸権利を放棄。

しかし、そのような大文字の歴史だけで語られるべきものではない。敗戦の際に、日本政府は、戸籍によって国籍を定めた(植民地文化学会・フォーラム『「在日」とは何か』)。このことは、大島渚『忘れられた皇軍』内海愛子『朝鮮人BC級戦犯の記録』李鶴来『韓国人元BC級戦犯の訴え』などに描かれているように、皇軍として使った朝鮮人の切り捨ても意味した。またさらに、サハリンに入植させた朝鮮人の切り捨てをも意味したのだった。敗戦時の大規模な棄民政策であったといえる。

このとき、新たに定義された「日本人」は日本へと引き揚げた。一方、切り捨てられた旧「日本人」にとっては、移動はままならぬことになった。李恢成の一家のように、なんとかその中に紛れて日本に移り住んだ者もあった。そして李恢成は、朝鮮籍(韓国籍ではない)を持つ者として、生まれ故郷を訪問することができず、1981年になってようやく海を渡った。この小説はそのときの記録的なものである。

日本への引き揚げ時に残してきた義姉。生き別れた祖母。幼馴染。はじめて出逢う同胞たち。かれらとの触れ合いが、作家の心の中を検証するかのように、また、まるで匍匐前進するかのように描かれている。読んでいてちょっと苦しくなってくる。

わたしにとって李恢成の小説は、難しい文体でもないにもかかわらず、読み通すのに妙に時間を要する不思議な存在である。それはおそらく、大文字の物語や、タカをくくったような語りとは正反対の場所にあるからだろうと思える。むしろこの苦難の物語は時間をかけて一緒に味わうものだろう。たとえば、「民族問題における同情は、本質的に優越感のあらわれでしかなく、けっきょくそれは差別意識の温存につながる」という一文も、それゆえに重くのしかかる。

●李恢成
李恢成『またふたたびの道/砧をうつ女』
李恢成『伽揶子のために』
李恢成『流域へ』
李恢成『沈黙と海―北であれ南であれわが祖国Ⅰ―』
李恢成『円の中の子供―北であれ南であれわが祖国Ⅱ―』
植民地文化学会・フォーラム「内なる植民地(再び)」
小栗康平『伽倻子のために』


『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越

2017-11-12 10:20:12 | アート・映画

日本橋三越本店に足を運んだ(2017/11/11)。6階のギャラリーで小林裕児さんの個展『小林裕児と森』が開かれており、あわせて、小林さんのライヴペインティングが行われた。

Yuji Kobayaashi 小林裕児 (painting)
Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)
Rutsuko Kumasaka 熊坂路得子 (accordion)

小林さんの絵については、齋藤徹さんのいくつかのCDジャケットで知ってはいたものの、本物の作品を観たのは今年の6月、神保町すずらん通りの檜画廊において『ドローイングとスケッチブック』という個展がはじめてだった。そのとき想像の森や人や梟や舟なんかに魅せられると同時に、スケッチブックからあふれ出んとする絵へのエネルギーに圧倒されたのだった。

今回の展示のなかにも分厚いスケッチブックがあり、ちょっと紐解くだけで悲喜が生き物のようにじわじわとこちら側ににじり出てくる。そして壁の作品群。今回愉しみながら観ていて気が付いたことは、皆がいつでも浮遊できるように爪先立っていることだ。人も舟も空を遊泳する。森もひょっとしたら遊泳を準備している。

さて、壁のもっとも大きな作品がビニールで養生され、その上に大きな紙が貼られた。はじめに、小林さんは、いくつもの場所に紫色の点を配する。テツさんがコントラバスの弦に触れるようにして静かに音を出しはじめ、熊坂さんも色を置くように蛇腹を震わせはじめた。

抽象画になるのかと思った。しかし、小林さんは黒で馬の顔と首を、前脚を、躰を生まれさせていった。その上に、空に飛翔せんとする女性。青で空が描き込まれ、どんどん絵に動きが与えられてゆく。馬には茶色で生きる証。そしてクライマックスは、赤い手綱。

コントラバスもアコーディオンも、まるで浮遊するように空中にいくつものアーチを描いた。それは馬と女性だけでなく、小林さんの絵のなかで生きる人々や森とも見事にシンクロしていた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●小林裕児
小林裕児個展『ドローイングとスケッチブック』@檜画廊(2017年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)

●齋藤徹
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン