都立大学のめぐろパーシモンホールに足を運び、「ザ・ピアノ・エラ2017」初日(2017/11/25)。
■ ディエゴ・スキッシ+北村聡
Diego Schissi (p)
Satoshi Kitamura 北村聡 (bandoneon)
guest:
Mario Laginha (p)
アルゼンチンのディエゴ・スキッシ。最初はピアノソロ曲から入り、こぼれるような音によってゆったりと音風景を見せてゆく。最後は重低音でリズミカルに攻めた。そしてタンゴの北村聡とのデュオ。最初は次々に向かいあうような演奏、次の曲は長いバンドネオンのイントロから思慮深くピアノが入り、慎重にデュオ演奏を展開した。
4曲目、なんと次のプログラムのマリオ・ラジーニャが呼び出され、スキッシとの連弾。これによりふたりの個性の違いが明らかになった。スキッシはエッジが丸く透明な感覚、ラジーニャはノイズも入れて強く響かせ、より突出的。このスキッシの丸さは次の曲のソロでも印象深いものだった。
ふたたび北村聡とのデュオ。テンポを積極的に持ち込んだ。最後の7曲目では奇妙なおかしみもある展開で、お互いにその快楽をぶつけていた。
●北村聡
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
■ マリオ・ラジーニャ
Mario Laginha (p)
最初はマイクを引き寄せ、ささやくように唄いながら鍵盤がハモり、はみ出し、いきなりの快感。ピアノはよりダイナミックに、忙しくも、和音を重ねてゆく。2曲目はECM時代初期のキース・ジャレットを思わせるような左右のきらびやかさがあり、3曲目はブロックコードの面白さがあった。
ここでラジーニャはショパンを1曲弾き、次に、右手で華麗な旋律を奏でる静かな曲につなげた。最後はなんとも愉快な曲で、エルメート・パスコアルのようにはなやかで心が浮き立つようであるけれど、一方で内省的で、ときにブルージーでもあった。テンポもコードも次々に変化した。
■ ボボ・ステンソン・トリオ
Bobo Stenson (p)
Anders Jormin (b)
Jon Fält(ds)
トリオは新作『Contra La Indecision』の発表を控えており、その収録曲もいくつか披露された。最初の「Doubt thou the Stars」ではいきなりアンダーシュ・ヤーミーンの胡弓のごときベースに驚かされる。ステンソンはするりと入る。ヨン・フェルトは水滴のような音からはじまり、手も口も使い、観客を驚かせた。次はバルトークの曲だったのか、実に柔らかいヤーミーンのベース、フェルトは愉快でもあるスティック捌き。静かな中でステンソンが鍵盤の音を置いていくたたずまいの素晴らしさ。
3曲目はスロバキアの結婚の曲だという「Weding Song from Poniky」。ステンソンはイントロからペダルでピアノを長く響かせた。たしかにフォーク的でも哀しくもある曲想で、ヤーミーンの見事なアルコが北欧の空気を持ち込んでいるのかと思わされた。
4曲目は「Oktoberhavet」(October Sea)。ヤーミーンの唄うようなベース、フェルトの遊ぶブラシ。次に、カーラ・ブレイを思わせもするピノのイントロ、そしてベースもピアノもリフレインと出し入れにより時間をどこかに飛ばしてしまった。そんな中でも親指ピアノで遊ぶフェルト。
6曲目と最終曲は、「ジャズのピアノトリオ」的な三者のインタラクションを見せてくれて、これもまたやはり聴きたいものだった。最終曲でのステンソンは、ミシェル・ペトルチアーニを思い出させてくれる明確さと強さがあった(どちらもチャールス・ロイドのグループのピアニストを務めたのだった)。
ステンソンは縦横に突出する派手さを出さなくとも、その空間のなかで自由であり、懐の広さを見せてくれた。ヤーミーンの柔らかいベースも見事だったし、フェルトのはしゃぎっぷりもバンドのチャーミングさとなって機能していた。