『金達寿小説集』(講談社文芸文庫)を読む。この時代に金達寿(キム・ダルス)の作品を文庫で出すなんて快挙ではないか(高いけど)。
金達寿は、日本による併合時の1920年に韓国に生まれ、少年時代に「内地」に渡ってきた。神奈川新聞に入社するも、一時期は韓国に戻り植民地政府の御用新聞で働き、幻滅するという体験をしている(そのあたりのことが、 『玄海灘』(1952-53年)や『わがアリランの歌』(1977年)に書かれている)。特筆すべきは、日本において日本語で書くという、さまざまな意味で複層的な活動を行ってきたことだ。
本書には、『玄海灘』と同じく芥川賞候補になったユーモラスな作品「朴達の裁判」(1958年)のほかに、興味深い短編がいくつか収録されている。
「位置」(1940年)は「善良なる日本人」が朝鮮人に向ける差別を、そして「富士の見える村で」(1951年)は「民」というマイノリティが別のマイノリティたる朝鮮人に向ける差別を描いた作品であり、底無しの、やり切れないほどの絶望感が吐露されている。
「濁酒の乾杯」(1948年)も複雑だ。ここには、朝鮮人が日本人の手先となり朝鮮人を抑圧する姿がある。
「対馬まで」(1975年)には、郷里に戻れない者たちの念が文字通り噴出している。そして、自身が少年時代に郷里を去った体験を描いたごく短い小説「祖母の思い出」(1946年)に渦巻く哀切の念はすさまじい。
●参照
金達寿『玄海灘』(1952-53年)
金達寿『朴達の裁判』(1958年)
金達寿『わがアリランの歌』(1977年)
これは御返還、じゃなかった誤変換です。
失礼。
ところで『玄界灘』ではなくて『玄海灘』です。ちなみに私はずっと勘違いしていました。過去のブログもこの機に修正しました。
(いまウランバートルです)
一時期ずいぶん読んだものですが、ほとんどが朝鮮文化についての評論でした。
棚を探しましたがどこに潜り込んだのか見つかりません。『玄界灘』とか『日本の中の朝鮮文化』とかあったはずなのですが。
この小説集は大変興味あります。しかしまあ、売れないでしょうね。だからこの値段。単行本にしたら3000円くらいするでしょう。本当に読みたい人だけ買ってくださいという出版ですね。
快挙と言うか、清水の舞台。200万円くらいの赤字でしょうか、出しただけでも評価。
単行本のつもりで買わないといけません。