間諜X27
1931年/アメリカ
愛憎の証しとしてのピアノ曲
総合
90点
ストーリー
0点
キャスト
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演出
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ビジュアル
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音楽
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主人公のX27ことマリー・コログランを演じるマレーネ・ディートリッヒの、作品冒頭のガス自殺を図ってアパートから運び出される白い布がかけられた娼婦の死体を見つめる視線から、ロシアのクラノウ大佐を逃走させた罪で目隠しを拒絶して銃殺される際の視線に至るまでクールに装うのであるが、決して冷徹ではないことを彼女はピアノを弾くことで証明する。
ヒンダウ大佐を自殺に追いやり、クラノウ大佐と接触を試みるあたりまではイヴァノヴィチの「ドナウ川のさざなみ」やベートーヴェンの「月光」を弾いているのであるが、クラノウ大佐を追うようにして、キャサリンという偽名を使って、家政婦として将校宿舎に乗り込んだ時には収集した情報を暗号に変えて楽譜に書き込む。その曲に「ロシアの大佐を躍らせて」とタイトルを付けた大佐は、ピアノが弾けないという大佐の言葉を信じて既成の曲を弾いて誤魔化そうとするX27の代わりに自ら弾き始め「1つの音符が1000人の兵の死を意味するのだろう」とつぶやき、やがてその楽譜を燃やしてしまう。黒猫を抱きながら、そのような大佐の言動を見つめ、あくまでも冷静を装うマレーネ・ディートリッヒ。後に暗譜していた曲を情熱を込めて弾きながら楽譜に書き起こす彼女の記憶力は1000人の敵兵に対する憎悪と同時に、一人の男性に対する愛情によって強化されていたはずであり、燃やされた楽譜の炎は怨念と情念が入り混じった比喩であったことを私たちは遅ればせながら知ることになる。
『アダムとイブ』(1963-67年)
もう終わってしまったが、5月6日まで東京都現代美術館で催されていた靉嘔の展覧会
「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」は素晴らしいものだった。レインボーを利用した緻密で
ありながらユーモアにも溢れた作風で、個人的には1993年頃に制作されたオリンピックを
テーマにしたものが良かった。81歳の靉嘔は間違いなく現代アートの第一人者であるが...
埼玉県立近代美術館で5月20日まで催されていた「草間彌生 永遠の永遠の永遠」は
今年83歳になる草間彌生の、ここ2、3年の間に制作された新作が展示されており、その
バイタリティーだけでも凄いのであるが、ヴィデオで草間は「ピカソやウォーホルよりも
有名になりたい」と宣言していた。精神病院を拠点に活動しているアーティストに勝てる人は
いない。