原題:『Quatre nuits d'un rêveur』 英題:『Four Nights of a Dreamer』
監督:ロベール・ブレッソン
脚本:ロベール・ブレッソン
撮影:ピエール・ロム
出演:イザベル・ヴェンガルテン/ギョーム・デ・フォレ/ジャン・モーリス・モノワイエ
1971年/フランス・イタリア
埋まらない「冷静」と「情熱」の間
本作の主人公であるジャックは冒頭から奇妙な行動をとっている。一人でヒッチハイクをして田舎の牧草ででんぐり返しをして一日を過ごすのであるが、決して楽しそうではなく、あたかもそれが楽しいことだと聞いたことがあるからやってみたというような感じを受ける。
ジャックは家で絵を描いている。ポップアートのような筆致であるが、その人物画にはどれにも顔が無い。ジャックは街を歩き回っては理想の女性像を探すかのように街を放浪し女性を物色している。マルトと出会った場所はポン・ヌフで、マルトはセーヌ河へ投身自殺をしようとしていた。大事にならないように計らいながらジャックはマルトを助ける。
マルトは以前自分の家に下宿していた大学生と恋に落ち、彼がアメリカに留学して1年後に再会しようと約束していたにも関わらず、パリに戻ってきているのに連絡してこないことに絶望して身投げしようとしたと語り、ジャックはマルトに手紙を書くようにアドバイスをする。
相談にのっている内に2人が恋仲になるという定番は、確かにその通りの展開にはなるが、やはりジャックが奇妙なのは、マルト本人を好きになったというよりも、街の看板やボートなどに見かける「Marthe」という文字に‘欲情’してしまったように見えることで、2人は恋に落ちて、なんならジャックがマルトを袖にしたりもするのであるが、結局は、偶然に出会った彼氏とマルトは縒りを戻してジャックは置き去りにされてしまう。
しかしジャックが2人の後を追いかけることはなく、家に戻ると、カセットテープに自分自身で吹き込んだ「物語」を聴きながら絵を描き始めるという展開で、感情の赴くままに生きるマルトと「物語」を介さなければ行動出来ない‘芸術家(un rêveur/a Dreamer)’のジャックとの間には断絶があるのだが、その2人を仲介する存在がF.R.デイヴィッド(F. R. David)たちが作り出すサブカルチャーのポップソングなのではあろう。