原題:『ベイビ~大丈夫かっ BEATCHILD 1987』
監督:佐藤輝
出演:佐野元春/渡辺美里/尾崎豊/白井貴子/岡村靖幸/ダイアモンド☆ユカイ/辻仁成
2013年/日本
大丈夫ではない人は誰なのか?
1987年8月22日から23日にかけて熊本県阿蘇郡久木野村(現・南阿蘇村)にある、この年にオープンしたばかりの熊本県野外劇場「アスペクタ」で行われた日本初のオールナイト・ロック・フェスティバルの映画化である。
このロック・フェスティバルが「日本版ウッドストック」と謳われているとするならば、当時の先鋭の日本のロックミュージシャンが集結したことも然ることながら、集中豪雨に見舞われたためで、この不幸が幸運にもこのロック・フェスティバルを伝説にしたことは疑いようのない事実であろう。そもそも、このハプニングはもしも公演を中止してしまった場合、多額の負債を抱えることになる主催者側の都合で強行されたものなのだから造られた伝説なのである。特に最初に‘土砂降り’の中で歌う羽目になった白井貴子は気の毒で、本人は完璧なパフォーマンスが出来なかったことが不本意だったと思うが、モニターも無い状況の中であれだけ出来たのだから御の字であろう。
当時のプロデューサーが自分の誕生日に合わせて開催日を決めてしまったためにこのような状況になってしまったと謝罪していたが、雨の日を選んで開催日を決めたわけではないのだから、謝る必要はないと思うが、それにしても本作に付けられている説教じみたナレーションは完全に‘昭和’の物言いで、その古臭さには唖然としてしまった。恐らく製作者サイドとしては、「昔は良い音楽があったけれども今は見当たらないよね」とでも言いたいのであろうし、エンドロールの終わりに主題歌としてウラニーノの「音楽はあるか」のプロモーションヴィデオ(?)まで流す丁寧さではあるが、「昔は良かったけれど今はダメだ」という紋切り型はもちろん勘違いであって、昔も質の悪い音楽はたくさんあったはずだが、心に残る曲は名曲だけだから、昔は良かったように感じるだけなのである。
つまり問題なのは、1987年に催されたロック・フェスティバルのドキュメンタリー映画を上映するまでに何故26年もかかってしまったのかということである。言うまでもなく音楽は聴いてもらうことで初めて価値を得るのであり、これだけ緊迫した演奏シーンの全貌がいままでにDVD化されずテレビで放送されることもなく、ようやく映画化できたという有様は体たらくと言うしかない。だから本作のタイトルは当時、熊本までロックを聴きに行った7万2千人に向けられるものではなく、本作の製作に関わった人々に向けられるべきものであろう。「ベイビ~大丈夫かっ」と。